「スラグ巻き込み」を回避する運棒法とビード外観の評価基準

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被覆アーク溶接における「スラグ巻き込み」完全攻略:運棒技術と品質管理の決定版

被覆アーク溶接、特に低水素系溶接棒を用いた多層盛り溶接において、最も忌避すべき欠陥の一つが「スラグ巻き込み(Slag Inclusion)」である。これは単なる外観不良ではなく、溶接部の靭性低下および疲労強度を著しく損なう構造上の致命傷となる。本稿では、溶接材料の冶金学的特性から、現場で即座に適用可能な運棒法、およびJIS規格に準拠した受入・品質評価基準までを網羅的に解説する。

1. スラグ巻き込みの発生メカニズムと冶金学的背景

スラグ巻き込みとは、溶融金属が凝固する過程で、被覆剤から生成されたスラグが浮上しきれず、金属内部に閉じ込められる現象を指す。

なぜ低水素系で発生しやすいのか

低水素系溶接棒(JIS Z 3211:E4316等)は、被覆剤中に石灰石(CaCO₃)や蛍石(CaF₂)を多く含む。これらは溶接中にアーク中で分解・反応し、溶融金属を保護するスラグを形成するが、以下の特性が巻き込みを誘発する要因となる。

  • 粘性と比重: 低水素系のスラグは、イルミナイト系等に比べ、溶融金属に対する比重差が小さく、かつ粘性が高い場合がある。このため、溶融池が深いと浮上が遅れる。
  • 表面張力: スラグが溶融池の隅(ルート部や前回のビードとの境界)に留まりやすく、次層の溶融金属がそれを覆い隠すことで発生する。

2. スラグ巻き込みを回避する運棒法と溶接条件

現場において、スラグ巻き込みを物理的に排除するための「技術的定石」は以下の3点に集約される。

アークの狙い位置(Targeting)

  • 「先行スラグ」の意識: アークは常に溶融池の最先端(溶融金属と母材の境界)を狙う。スラグを溶融池の後方へ押し流すイメージを持つこと。
  • ルート部への集中: 初層や次層のルート部では、アークを母材の溶け込みが十分得られる位置に維持し、スラグが滞留する空間を作らない。

運棒スピードとアーク長

  • アーク長(Arc Length): 低水素系は「短アーク」が基本。アーク長が長くなると溶融池が不安定になり、スラグが溶融池の側面に巻き込まれるリスクが飛躍的に高まる。目安は棒径の0.5〜0.8倍程度に抑える。
  • 運棒スピード(Travel Speed): 速度が速すぎると入熱不足でスラグが粘り、遅すぎると溶融池が大きくなりすぎてスラグが混入する。
  • 目安: ビード幅は棒径の2.5〜3倍以内を維持する。ウィービング幅が広すぎる(棒径の4倍以上)と、両端でスラグが滞留しやすいため要注意。

多層盛りにおけるクリーニングの絶対原則

  • 層間清掃の徹底: 多層盛りにおいて、前層のスラグを完全に除去することは「義務」である。
  • 使用工具: ワイヤーブラシだけでなく、スラグが深い場合はタガネやグラインダーを用いて「スラグの凹凸」を完全に平滑化する。特にアンダーカット部や、ビードの継ぎ目(クレーター部)はスラグが残りやすいため、入念に処理する。

3. 溶接条件の適正化データ

溶接棒の性能を最大限に引き出し、巻き込みを防ぐための電流・電圧設定の目安を以下に示す。

| 棒径 (mm) | 推奨電流範囲 (A) | 電流設定の考え方 |
| :— | :— | :— |
| 2.6 | 60 – 95 | ルート部は上限、中間層は中央値 |
| 3.2 | 90 – 130 | 安定したアークが得られる範囲で最大値を狙う |
| 4.0 | 130 – 180 | 下向・水平隅肉ではやや高め、立向は下限付近 |

  • 電圧管理: 直流アーク溶接機において、電圧設定(アーク長制御)はスラグの流動性に直結する。電圧が高すぎるとアークが暴れ、スラグを巻き込みやすくなるため、溶接電源の特性に合わせて「アークが短く維持できる最小の電圧」を選択する。

4. 品質評価基準:ビード外観と内部欠陥の検査

ISO 5817(溶接継手の品質レベル)およびJIS Z 3060(超音波探傷)等の規格に基づく評価基準を理解しておく必要がある。

ビード外観による判断基準

  • スラグの残留: 溶接終了後、目視でスラグが残存している場合は即座に除去し、再検査を行う。
  • ビードの形状:
  • 蛇行(Wandering): 溶接線から外れるとスラグの偏析を招く。
  • ビード幅の不均一: 運棒スピードの不安定さを示唆し、内部欠陥の予兆となる。
  • アンダーカット: 深いアンダーカットはスラグの「巣」となるため、許容値(ISO 5817のB級/C級等)を厳格に適用する。

非破壊検査(NDT)での判定

  • 放射線透過試験(RT): スラグは金属より密度が低いため、フィルム上では黒い斑点や線状の影として写る。長手方向の長さと幅の比率から欠陥の危険性を判定する。
  • 超音波探傷試験(UT): スラグは境界反射を生じやすいため、エコー高さで判定する。特に多層盛りでは、層間に沿った「面状のスラグ巻き込み」が最も危険視される。

5. 現場技術アドバイス:トラブルシューティング

  • 「どうしてもスラグが残る」場合: 溶接棒の再乾燥(リドライ)を確認せよ。低水素系は吸湿すると被覆剤中の水分がアーク中で分解し、スラグの粘性を変化させる。300〜350℃で1〜2時間の再乾燥が鉄則である。
  • 「継ぎ目部分の巻き込み」: クレーター処理時にアークを戻して充填する「バックステップ」を徹底する。クレーター部分にスラグが溜まった状態で次棒を開始すると、100%の確率で巻き込みが発生する。
  • 姿勢制御: 立向溶接においては、重力によりスラグが溶融池の上部に流れ落ちる。アークの狙いを溶融池の「中央よりやや上」に固定し、スラグを強制的に押し出す運棒技術が求められる。

本稿で解説した技術的要諦は、溶接施工管理の基本であると同時に、品質保証の根幹をなすものである。特に多層盛りにおいては、「前層が次層の土台である」という意識を徹底し、清掃と運棒の標準化を行うことで、スラグ巻き込みは確実に撲滅可能である。

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