溶接欠陥のRT読影:ボイド・ブローホールと内部欠陥の判別技術
放射線透過試験(RT)における読影は、単なる「影の形」の認識ではない。溶接プロセス、冶金学的メカニズム、そしてJIS Z 3104(鋼溶接継手の放射線透過試験方法)等の規格基準を統合的に理解し、フィルム上に現れる現象を3次元的に再構築する高度な知能的作業である。
1. 欠陥発生の冶金学的メカニズムとRT像の相関
RTで観察される「影」は、放射線の透過量差によって生じる。欠陥の密度と厚みが母材と異なることで、コントラストが生じる仕組みを理解する。
ボイド・ブローホール(気孔)
- 発生メカニズム: 溶融池内でのガス(H₂, N₂, CO, CO₂)の過飽和、またはシールド不良による大気混入が原因。凝固速度が速すぎるとガスが排出されず、溶接金属内に捕捉される。
- RTでの特徴:
- 形状: 基本的に「円形」あるいは「楕円形」。
- 濃淡: 中心部が最も濃く(透過量が多い)、周辺に向かって徐々に薄くなる。これは球体に近い空洞が金属の厚みを減少させているためである。
- 分布: 独立した個別の点、あるいは虫食い状の群生(クラスター)。
スラグ巻き込み
- 発生メカニズム: 多層溶接における層間清掃不足や、溶接棒の被覆剤・フラックスが溶融金属内に取り残される現象。
- RTでの特徴:
- 形状: 不規則で角張った形状。
- 濃淡: ボイドと比較して濃淡が不均一で、エッジが鋭い。
- 分布: 溶接線に沿った線状や、止端部付近に多く見られる。
溶け込み不良
- 発生メカニズム: 入熱不足、開先角度の不適合、溶接速度の過大により、ルート部や側壁部が未溶融のまま残る現象。
- RTでの特徴:
- 形状: 非常に細い「線状」。
- 濃淡: 非常にシャープで、直線的。
- 判別: 照射方向と欠陥面が一致しないと消失するため、RTでは見逃しやすい。JIS Z 3104では、他の欠陥以上に警戒が必要な「平面状欠陥」として扱う。
2. 読影の現場実践と判別チャート
読影トレーニングの基本は、フィルム上の影を「形状」「分布」「コントラスト」の3要素で分類することにある。
| 欠陥種別 | 形状的特徴 | 濃淡のグラデーション | 発生箇所の傾向 |
| :— | :— | :— | :— |
| 独立ブローホール | 円形・楕円形 | 中心が濃く、周辺が緩やか | 溶接金属内部全体 |
| 群生ブローホール | 集合体(虫食い状) | 複雑だが各点は円形 | 溶接開始・終了部、シールド不良部 |
| 線状スラグ | 不規則・角張る | 濃淡が不均一 | 層間、溶接線沿い |
| 溶け込み不良 | 直線的な線状 | 非常に鋭利 | ルート部、開先壁面 |
読影時のチェックポイント
1. コントラストの勾配: 影の境界が「ぼやけている(球状)」か「鋭利か(平面・角状)」を拡大鏡で確認する。
2. 母材との境界: 溶接止端部に沿っている場合は、スラグや溶け込み不良の可能性が高い。
3. 溶接電流・速度の推定: ブローホールが多発する場合、電流値が高すぎるか、溶接速度が速すぎてガス抜きが不十分であると推測し、施工記録と照合する。
3. 専門的知見:規格・評価基準の深層
JIS Z 3104 における評価
JIS Z 3104では、欠陥を「第1種(球状)」「第2種(長形)」「第3種(平面状)」に分類する。
- 第1種(ボイド・ブローホール): 径の大きさで評価。クラス分類(1級〜3級)に基づき、規定範囲内の個数や合計径で合否判定。
- 第2種(スラグ巻き込み): 長さと幅で評価。
- 第3種(溶け込み不良・割れ): 長さが規定を超えた時点で不合格となる厳しい評価基準が適用される。
冶金学的解決策
現場でブローホールが頻発する場合、以下のパラメータを再調整する:
- シールドガス流量: 流量過多によるベンチュリ効果で大気を巻き込んでいないか確認(TIG溶接の場合、8-12L/minが目安)。
- 予熱温度の管理: 高張力鋼や厚板では、水分を除去し凝固時間を制御するために適正な予熱(100℃〜200℃以上)が不可欠。
- 開先清掃: 油分、錆、塗料は、溶接熱で分解され水素源となる。溶接前清掃の徹底は、RT合格率を上げる最も確実な手法である。
4. 読影スキルの向上:トレーニング方法
1. 標準試験片の活用: JIS規格に準拠した標準試験片(IIW型など)を用い、欠陥の有無が既知のフィルムを繰り返し見る。
2. RTと破壊試験の対比: 疑わしい部位を切り出し、断面マクロ試験を行い、RT像と実際の断面形状を脳内でリンクさせる。この経験値の蓄積こそが、特別級技術者に求められる「読影眼」の正体である。
3. デジタル画像処理: 近年のデジタルRT(CR/DR)では、ウィンドウレベル(コントラスト調整)を駆使し、濃淡の境界を強調することで、視覚では捉えにくい微細な溶け込み不良を炙り出す技術が必須である。