アーク溶接における安全衛生 有害光

安全衛生
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  • アーク溶接で発生する有害光が関係する健康障害、電機性眼炎、紫外眼炎、角膜炎、結膜炎、白内障、網膜障害である
  • 急性障害:電機性眼炎、紫外眼炎、角膜炎、結膜炎
  • 慢性障害:白内障、網膜障害
  • 有害光ばく露防止の為の作業環境対策と作業者対策は、
    ⇒作業環境対策:遮光カーテンの仕様、遮光用衝立の仕様、立入禁止区域の設定
    ⇒作業者対策:遮光保護具の着用、溶接用保護面の着用
  • 溶接用保護面に用いられるフィルタプレートの遮光度番号13に好ましい遮光度番号の組み合わせは7と7である。  
    ※番号の組み合わせの足し算結果-1  
  • 溶接作業者に生じうる急性障害は表面層角膜炎である
  • 電機性眼炎の主要因は紫外線である
  • 青色(ブルーライト)で主に発症するのは光網膜炎である
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詳細説明

アーク溶接で発生する有害光は、作業者や周囲の人々に対して極めて強い健康リスクをもたらすため、十分な知識と対策が必要です。有害光とは、アーク溶接時に放射される電磁波のうち、人間の目や皮膚に悪影響を与える紫外線(UV)、可視光線、赤外線(IR)を指します。これらはアーク光(アーク放射とも呼ばれる)の中に含まれ、電弧が発生すると同時に高い強度で放射されます。


1. 紫外線(Ultraviolet:UV)

アーク溶接で最も危険とされるのが紫外線です。紫外線は波長100~400nmの範囲にあり、特に波長の短いUV-C(100~280nm)とUV-B(280~315nm)は強い生体影響を持ちます。アーク溶接では、鉄やアルミなど金属の種類や溶接電流の強さによって放射される紫外線の強さが変わります。

紫外線が人体に与える影響として、まず皮膚には日焼けのような症状が現れます。これは「紫外線皮膚炎」とも呼ばれ、長期にわたって被曝すると皮膚がんのリスクも増大します。また、目への影響は「電気性眼炎」(通称:アーク眼)として知られ、溶接中に直接アーク光を見なくても、反射光を数秒~数分間見ただけでも角膜が炎症を起こし、数時間後に激しい痛み、異物感、涙、まぶしさなどの症状が現れます。この症状は一時的なものが多いですが、繰り返し発症すると視力に長期的な悪影響を及ぼす可能性もあります。


2. 可視光線(Visible Light)

波長400~700nmの範囲にある可視光線は、私たちの目に見える光ですが、アーク溶接中には非常に強烈で眩しく、網膜に負担を与えます。短時間であっても直接見ると目に強い刺激を与え、視界が一時的に白くなったり、頭痛や吐き気を誘発することもあります。また、可視光線の中でも青色光はエネルギーが高く、網膜にダメージを与える可能性があります。これにより、長時間の溶接作業では眼精疲労や慢性的な視力低下を引き起こすおそれがあります。


3. 赤外線(Infrared:IR)

赤外線は700nm以上の波長を持つ電磁波で、主に熱として感じられます。アーク溶接では強い赤外線が発生し、これが長時間目に入ると水晶体に熱的ダメージを与え、白内障の原因になることがあります。皮膚に対しても、火傷や深部組織の損傷を招く危険性があります。赤外線の放射は目に見えないため自覚しにくく、知らず知らずのうちに被曝しているケースも少なくありません。


4. 有害光からの防護対策

アーク溶接での有害光から身体を守るには、以下のような防護策が不可欠です。

(1) 遮光面(溶接面)の使用

遮光面は、アーク光から目や顔を守るための必須の保護具です。遮光フィルターの濃度(遮光度:シェードナンバー)は、使用電流に応じて適切に選定する必要があります。たとえば、150A程度の被覆アーク溶接では遮光度#10〜#12が推奨されます。自動遮光面は、アークが発生した瞬間に遮光フィルターが自動で暗くなるため、作業効率と安全性の両立が可能です。

(2) 保護眼鏡やゴーグル

遮光面に加えて、紫外線や赤外線を遮断する特殊フィルターを備えた保護眼鏡の併用も有効です。アークを直接見ない場合でも、反射や散乱した光によって目を傷めることがあるため、常に保護眼鏡を着用することが望まれます。

(3) 難燃性作業着の着用

作業者の皮膚を有害光から守るためには、難燃性・紫外線遮断性の高い素材で作られた長袖・長ズボンの作業着が必要です。顔や首周辺は遮光フードやフェイスガードで保護します。

(4) 作業環境の管理

他の作業者が近くにいる場合には、アーク光が直接目に入らないように遮蔽スクリーンを設置することが求められます。また、作業区域への立ち入り制限や警告表示も効果的です。


5. 有害光を見てしまった場合の対処

もしアーク光を見てしまい、後から目に痛みや異物感、涙が出るなどの症状が現れた場合は、すぐに目を冷やし、できるだけ早く眼科を受診することが重要です。応急処置として冷たいタオルなどで目を冷やすことは有効ですが、症状が悪化する場合や視力に異常がある場合は必ず専門医の診察を受けましょう。


6. まとめ

アーク溶接で発生する有害光は、紫外線、可視光線、赤外線の3種類に分類され、それぞれが目や皮膚に深刻なダメージを与える可能性を持っています。溶接作業者だけでなく、周囲の作業者や見学者も含めて防護対策が必要です。適切な遮光面・保護眼鏡・作業着を使用し、作業環境の安全性を高めることが、溶接作業における健康被害の防止につながります。有害光を軽視せず、しっかりとした安全対策を講じることが、作業の品質と安全を守る鍵となります。

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