遮光保護具はJIS T 8141によって、遮光度番号が制定されている。
- 被覆アーク溶接で、溶接電流が75Aを超え、200Aまで:
9、10、11
- 被覆アーク溶接で、溶接電流が200Aを超え、400Aまで:
12、13
- ガスシールドアーク溶接で、溶接電流が100Aを超え、300Aまで:
11、12
- ガスシールドアーク溶接で、溶接電流が300Aを超え、500Aまで:
13、14
詳細説明
アーク溶接は非常に強い光(アーク光)を発生させる作業であり、その光には紫外線(UV)、可視光線、赤外線(IR)といった人体に有害な電磁波が含まれています。これらの光から目や顔を守るために使用されるのが「遮光保護具(遮光面、遮光眼鏡など)」です。これらの保護具には遮光度(しゃこうど:Shade Number)と呼ばれる等級があり、アーク光の強度や作業条件に応じて適切な遮光度のものを選ぶ必要があります。
以下では、アーク溶接における遮光保護具の遮光度について、その定義、選定基準、適用例、誤った選定の危険性などを詳しく解説します。
1. 遮光度(Shade Number)とは
遮光度とは、遮光フィルタ(レンズ)を通じて光の透過をどれだけ抑えるかを示す尺度で、数値が大きくなるほど光の透過率が低くなり、より暗いレンズになります。つまり、遮光度が高いほど、より強い光に対して目を保護できるということです。
遮光度の数値は「#10」「#11」などと表記され、溶接の種類、電流の大きさ、使用する母材の金属種、作業者の感受性によって最適な遮光度が変わります。
遮光度の設定には、日本産業規格(JIS T 8141)およびアメリカ国家規格(ANSI Z87.1)などの安全規格に基づいたガイドラインが存在します。
2. 遮光度の選定基準
遮光度を選定する際には、主に以下の3つの要素を考慮します。
(1) 使用する溶接方法
溶接方法ごとに発生するアーク光の強さが異なるため、それに応じた遮光度が必要です。以下に主な溶接法とその推奨遮光度を示します。
溶接法 | 推奨遮光度(目安) |
---|---|
被覆アーク溶接(SMAW) | #10 ~ #12 |
炭酸ガスアーク溶接(MAG) | #10 ~ #13 |
アルゴンTIG溶接(TIG) | #9 ~ #12 |
プラズマアーク溶接 | #10 ~ #14 |
アークエアガウジング | #12 ~ #14 |
ガス切断(酸素アセチレン) | #5 ~ #6 |
(2) 溶接電流(アンペア数)
電流が高いほど発生する光の強度も増すため、それに応じて遮光度も高く設定する必要があります。
溶接電流(A) | 遮光度の目安 |
---|---|
~60A | #7 ~ #9 |
60A~160A | #10 ~ #11 |
160A~250A | #11 ~ #12 |
250A~500A | #12 ~ #14 |
たとえば、200Aの電流で被覆アーク溶接を行う場合、遮光度#11〜#12の範囲が適切とされます。
(3) 個人の感受性と作業時間
人によって光に対する感受性が異なるため、まぶしさを強く感じる人や、長時間作業を行う場合は、1段階高い遮光度を選ぶことが推奨されます。ただし、遮光度が高すぎると視界が暗くなり、作業性が低下する場合もあるため、バランスが重要です。
3. 遮光保護具の種類
遮光度が適切に設定された保護具には主に以下のものがあります。
(1) 固定式遮光面
- 一定の遮光度を持つレンズが取り付けられている
- 機械的にシンプルで安価
- 作業内容ごとに遮光度の異なる面を使い分ける必要がある
(2) 自動遮光面(自動遮光溶接ヘルメット)
- アークの発生を感知すると瞬時に遮光度が上がる
- 通常時は明るく見えるため、溶接位置の調整などに便利
- 遮光度は#9~#13などの範囲で可変できるモデルが一般的
- バッテリーやソーラー電池による駆動
(3) 遮光ゴーグル/保護メガネ
- 主にガス溶接や軽作業、見学時の使用に適する
- 遮光度は低め(#5〜#8程度)
4. 遮光度の誤選定による危険性
遮光度が低すぎる場合
- アーク光が目に入ってしまい、電気性眼炎(アーク眼)になる危険性
- 紫外線や赤外線による目の角膜損傷や水晶体障害(白内障)
- 可視光線による視神経へのストレス、頭痛や視力低下
遮光度が高すぎる場合
- 作業部位が暗く見えづらくなり、精度や安全性の低下
- 誤溶接、品質不良の原因となる可能性
- 長時間の目の緊張による眼精疲労
5. 遮光度の規格と表示
遮光度の規格はJIS(日本産業規格)やANSIなどで定められており、適合品には以下のような表示があります。
- 遮光度番号(#10、#12など)
- JIS T 8141適合マーク
- ANSI Z87.1適合マーク(アメリカ規格)
- UVカット、IRカットの記載
正規の製品を使用することが、目の健康を守る第一歩です。
6. まとめ
アーク溶接作業における遮光保護具の遮光度は、作業者の目を有害光線から守るために極めて重要な要素です。適切な遮光度を選ばなければ、アーク光による深刻な健康被害(電気性眼炎、白内障、視力障害など)を引き起こす恐れがあります。
遮光度の選定は、溶接方法、使用電流、作業時間、個人の感受性など複数の要素を考慮して行う必要があります。また、作業効率や安全性を保つためにも、自動遮光面などの先進的な装備の利用も検討すべきでしょう。
アーク光の影響は「目に見えにくいダメージ」を蓄積させるため、日々の安全対策が将来の健康に直結します。作業前には必ず遮光保護具の点検と遮光度の確認を行い、確実な自己防衛を心がけることが、プロフェッショナルとしての基本です。