ガス切断

切断
  • ガス切断は、被切断材料の一部を予熱炎で加熱し、この部分の温度が発火温度(発火点) に達したときに高圧の切断酸素ガスを吹き付けて行う切断法である
  • 予熱炎を作るための燃焼ガスとしては、アセチレン以外に水素プロパンなども利用されている

ガス切断は、金属加工の現場で古くから使われている、非常に重要な切断方法です。詳しく解説します。

1. ガス切断とは

ガス切断は「酸素切断」とも呼ばれる熱切断方法の一種です。燃料ガス(アセチレン、プロパン、天然ガスなど)と酸素を混ぜて燃焼させ、その高温の炎で金属を予熱し、さらに高圧の酸素を吹き付けることで金属を酸化・燃焼させ、溶けた部分を吹き飛ばして切断します。主に炭素鋼や一部の低合金鋼などの鉄系金属の切断に用いられます。

2. 原理

ガス切断の原理は、以下の3つのステップで説明されます。

  1. 予熱: まず、切断したい金属の表面を燃料ガスと酸素の混合炎で加熱し、金属が酸素と反応しやすくなる温度(発火温度、約900℃前後)まで温めます。この時点ではまだ金属は溶けていません。
  2. 酸化(燃焼): 金属が発火温度に達したら、トーチの中心から高圧の純粋な酸素を吹き付けます。この酸素が熱せられた金属と急速に反応し、激しい酸化(燃焼)が起こります。この燃焼反応によって大量の熱が発生し、さらに金属の温度が上昇して溶融します。
  3. 溶融物(スラグ)の吹き飛ばし: 燃焼によって生成された溶融した酸化鉄(スラグ)は、酸素の噴流の力によって吹き飛ばされます。この一連の動作が連続的に行われることで、金属に溝(切断線、カーフ)が形成され、切断が進んでいきます。

3. 使用するガスと種類

ガス切断に使用するガスは、主に酸素燃料ガスの2種類です。

  • 酸素: 金属の酸化(燃焼)を促進し、溶融物を吹き飛ばす役割をします。高純度の酸素が使われます。
  • 燃料ガス: 金属を予熱するための炎を生成します。主な燃料ガスは以下の通りです。
    • アセチレン (C2H2):
      • 特徴: 炎の温度が非常に高く(約3,100~3,500℃)、予熱時間が短く、高速で切断が可能です。最も一般的なガス切断用燃料ガスです。溶接にも使える唯一のガスです。
      • 注意点: 高温で不安定なため、漏れや引火に注意が必要です。
    • プロパン (C3H8):
      • 特徴: アセチレンより炎の温度は低いですが(約2,500~2,800℃)、安価で安全性が高いです。厚い材料の切断にはアセチレンより予熱に時間がかかる場合がありますが、切断面が比較的きれいになる傾向があります。
    • 天然ガス (メタン – CH4):
      • 特徴: 非常に安価ですが、炎の温度は最も低く(約2,400~2,700℃)、予熱に時間がかかります。
    • MAPPガス: アセチレンとプロパンの中間的な特性を持ち、バランスが良いとされます。

また、ガス切断器(トーチ)には、使用するガスの圧力によって低圧式中圧式に分類されることもあります。さらに、切断能力(厚み)によって「中切り」「A切り」「B切り」などと呼ばれるものがあり、それぞれ対応する火口(ノズル)の番号が異なります。

4. メリットとデメリット

メリット

  • 厚板の切断に強い: 他の切断方法(プラズマ切断やレーザー切断など)では難しい非常に厚い金属(数十mm〜数百mm)も切断できます。
  • 初期費用・ランニングコストが比較的安い: 大がかりな電源設備や高価な機械が不要なため、導入コストが抑えられます。
  • ポータビリティが高い: 装置が比較的コンパクトで持ち運びやすいため、屋外や電源がない現場での作業に適しています。
  • 操作が比較的容易: 習熟すれば、比較的簡単に操作できるようになります。
  • 曲線切断が可能: 手作業による切断では、直線だけでなく曲線や円など、自由な形状に切断することも可能です。

デメリット

  • 切断できる材料が限られる: 主に炭素鋼や一部の低合金鋼などの鉄系金属に限られます。ステンレス鋼やアルミニウムなどの非鉄金属は、酸化しにくいためガス切断には不向きです(溶断として一部可能ですが、切断面品質が劣ります)。
  • 切断面の品質: プラズマ切断やレーザー切断に比べて、切断面が粗く、ノロ(溶融物が固まったもの)が付着しやすい傾向があります。後工程での仕上げ作業が必要になる場合があります。
  • 熱影響が大きい: 高温の炎を使用するため、切断箇所周辺に熱影響部(HAZ)が広く発生し、材料の歪みや変質が起こりやすいです。
  • 切断速度が遅い: 高速切断が求められる場合には、プラズマ切断やレーザー切断に劣ります。
  • 作業者の熟練度による仕上がりの差: 手作業での切断の場合、作業者の技術や経験が切断面の品質に大きく影響します。
  • 安全性への配慮: 可燃性ガスと酸素を使用するため、火災や爆発のリスクがあり、適切な安全管理が必須です。

5. 主な用途

ガス切断は、その特性から以下のような場面で広く利用されています。

  • 建設現場: H形鋼やI形鋼などの鉄骨、鉄筋の切断。建物の解体作業など。
  • 解体作業: 古い橋梁や構造物、機械などの解体・撤去。
  • スクラップ処理: 大型の金属構造物や廃材を細かく切断し、リサイクルしやすい状態にする。
  • 造船業: 厚い鋼板の切断。
  • 一般の工場や作業場: 厚板の一次切断や、粗加工、簡単な形状の切断など。
  • 補修・メンテナンス: 既存の設備の改修や修理に伴う金属の切断。

6. 安全上の注意点

ガス切断は高温の炎と高圧ガスを扱うため、安全に対する十分な知識と対策が不可欠です。

  • 資格: ガス溶接技能講習の修了など、資格が必要です。
  • 保護具の着用: 保護メガネ(遮光保護具)、革手袋、革前掛け、安全靴、防炎服など、適切な保護具を必ず着用します。
  • 換気: 作業場所の換気を十分に行い、可燃性ガスや有害なヒュームが滞留しないようにします。特に密閉された空間での作業は危険です。
  • ガスボンベの取り扱い:
    • 転倒防止のために、必ずチェーンなどで固定します。
    • 直射日光の当たる場所や高温になる場所に置かないでください。
    • 衝撃を与えたり、粗雑に扱ったりしないでください。
    • 火花の当たる場所には置かないでください。
  • ガス漏れの確認: 作業前には必ず石鹸水などを用いてガス漏れがないか確認します。
  • 逆火防止器の設置: ホースや調整器への逆火(炎がホース内を逆流すること)を防ぐために、必ず逆火防止器を取り付けます。
  • 周囲の確認: 可燃物や引火性の物質が近くにないことを確認し、十分な防火養生を行います。
  • 火花の飛散: 切断中に火花が広範囲に飛散するため、周囲の人や物への配慮が必要です。
  • 作業中断時・終了時: 作業を中断したり終了したりする際は、必ずガス供給元のバルブを閉め、ホース内の残圧を抜きます。

ガス切断は、そのシンプルさ、携帯性、そして厚板切断能力から、現在でも多くの現場で重宝されています。しかし、安全な作業のためには、正しい知識と技術、そして十分な注意が不可欠です。

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