FE-C系平衡状態図

評価試験
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  • 構造用圧延鋼材SS490、SM490、SN490の組織は圧延のままではフェライト・パーライト混合組織であるが、 アーク溶接時に1250-1500℃に加熱された領域は粗粒域と呼ばれ、高温ではオーステナイト となっている。この状態から急冷すると、室温ではマルテンサイトとなり、硬化する。
  • SS材、SM材、SN材のいずれの鋼種も、1000℃以上に加熱されると、オーステナイト組織となる。 高温のこの組織から室温まで徐冷すると、フェライト+パーライト組織となり、急冷すると、マルテンサイト組織が現出しやすい。

  • 0.15%C鋼の室温での組織はフェライト・パーライト混合組織である
  • この鋼を加熱してゆくと、727℃より高い温度で、パーライトがオーステナイトに変態する
  • この温度をAc1点という
  • そしてフェライトとオーステナイトの2相組織となり、さらに温度が上昇すると共に、オーステナイトの分率が高まり、850℃より高い温度でオーステナイト単体組織となる
  • この温度をAc3点という
  • A点(1,000℃)から冷却すると、850℃より低い温度で、オーステナイト相からフェライトへの変態が開始する
  • この温度をAr3点という
  • さらに温度が低下するとともに、オーステナイト・フェライト2相領域のフェライト相の分率が高まり、727℃より低い温度で、残留しているオーステナイトはパーライトに変態し、フェライト・パーライト組織になる
  • この温度をAr1点という
  • 冷却速度が増すとオーステナイト⇒パーライト変態の温度はさらに低下し、冷却速度がある臨界速度を超えると残留しているオーステナイトはマルテンサイトに変態する
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詳細説明

溶接において「Fe-C系平衡状態図(鉄‐炭素系状態図)」は、鋼および鋳鉄の組織形成や相変態の理解に欠かせない金属組織制御の基礎資料です。特に、母材が受ける溶接熱による組織変化や、それが引き起こす硬さ・靭性・割れ感受性の理解と制御には、このFe-C状態図の知識が不可欠です。

以下では、Fe-C系平衡状態図の構造・主要点・各相の変態・溶接との関係・実務的な応用例などを含めて、約3000文字でわかりやすく解説します。


1. Fe-C系平衡状態図とは?

Fe-C系平衡状態図は、鉄(Fe)と炭素(C)からなる合金の温度と組成に応じた相(組織)の変化を示した図であり、鉄鋼材料の熱処理・溶接・鋳造などの工程設計の基礎として使われます。

縦軸:温度(℃)

通常は室温から約1600℃まで。

横軸:炭素濃度(%C)

左端(0%C)から右端(約6.7%C、セメンタイト)まで。
※実用的には0〜4.3%Cがよく使われます。

平衡状態

理論的には非常にゆっくりとした加熱・冷却条件下での平衡状態(=安定状態)を示しています。実際の溶接や冷却では非平衡変態も起こりますが、平衡図はその基礎を理解する出発点です。


2. 鉄鋼の種類と炭素量の分類

Fe-C系状態図では、炭素含有量によって以下のように分類されます。

種類炭素量特徴
純鉄0%軟らかいが強度に乏しい
低炭素鋼~0.25%延性・加工性が良好、建築材などに使用
中炭素鋼0.25~0.6%強度・靭性のバランス良好
高炭素鋼0.6~2.0%硬くてもろい、刃物・ばねに使用
鋳鉄2.0~6.7%鋳造性良好、脆い、鋳物部品に使用

3. Fe-C系状態図の重要点

以下のポイントは、溶接や熱処理での組織理解に極めて重要です。

① オーステナイト(γ)

  • 固溶体:炭素を多く含む面心立方格子の相
  • 安定温度:727~1493℃
  • 溶接加熱でまずこの相に変態(オーステナイト化)

② フェライト(α)

  • 体心立方格子。炭素の固溶限が非常に小さい(0.02%C以下)
  • 室温で安定。延性が高く軟らかい

③ セメンタイト(Fe₃C)

  • 炭化鉄。硬くてもろい
  • 平衡冷却では、炭素が多い場合に析出する

④ パーライト

  • フェライトとセメンタイトの層状構造
  • 約727℃以下で析出(共析反応)
  • 機械的性質は中庸。中炭素鋼に多く見られる

4. 状態図における重要線

A₁線(約727℃)

  • 共析温度線
  • オーステナイトがパーライトに変態する温度
  • 「臨界温度」とも呼ばれ、熱処理や溶接後の組織予測に重要

A₃線(低炭素側の境界)

  • オーステナイトからフェライトへの変態開始線
  • 炭素濃度により変化

Acm線(高炭素側の境界)

  • オーステナイトからセメンタイトへの変態開始線

共析点(0.76%C, 727℃)

  • 鉄鋼の中で最も重要な変態点
  • オーステナイト → パーライトに変態する点

5. 共析鋼と過共析鋼

共析鋼(約0.76%C)

  • 冷却によりオーステナイトが全てパーライトに変態
  • 中炭素鋼の多くがこれに近い性質を持つ

過共析鋼(0.76%〜2.0%C)

  • セメンタイトが先に析出し、残りがパーライトに変態
  • 硬くて脆く、加工性は悪いが高強度が必要な用途に用いられる

6. 溶接との関係

Fe-C系状態図は、溶接における加熱→冷却時の組織変化を理解・予測するうえで非常に重要です。

(1)オーステナイト化と再変態

溶接で母材が高温になると、フェライトやパーライトはオーステナイトに変態。冷却過程で温度に応じてフェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイトなどに変化します。

  • 冷却が遅い:平衡変態 → フェライト・パーライト
  • 冷却が速い:非平衡変態 → マルテンサイト、ベイナイト

※この変態挙動はCCT図やTTT図に対応

(2)溶接熱影響部(HAZ)

HAZの温度履歴と組織変化はFe-C状態図と深く関係。たとえば高炭素鋼では冷却中にマルテンサイトが形成され、焼入れ割れや硬さ増加による脆性破壊のリスクが高まる。

(3)予熱・後熱の判断基準

Fe-C図でオーステナイト域に入る温度や変態点を知ることで、予熱温度を適切に設定し、割れを防止可能。


7. 実務への応用例

応用場面活用方法
熱処理焼入れ、焼戻し、焼ならしの温度設定に必要
溶接入熱管理、冷却速度制御、組織予測に使用
鋳造析出順序や共晶点の理解、鋳物設計に必要
材料選定使用温度・強度・加工性の観点から適材選定に役立つ
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