考察例
下図のように鋼管にスリットを切ってプレートを差し込み、すみ肉溶接を行った継手がある。この継手に引張荷重P=100kNが作用するとき、必要な有効溶接長さLを回答手順に従って求めよ。ただし、母材の 降伏応力は240N/㎟、引張強さは440N/㎟であり、許容引張応力は降伏応力の2/3、又は引張強さの1/2の小さい方とし、許容せん断応力は許容引張応力の60%とする。また、すみ肉溶接の脚長=サイズ とし、1/√2=0.7とする。

回答手順
- ①許容引張応力は、(A)降伏応力の2/3⇒240N/㎟×2/3=160N/㎟と(B)引張強さの1/2⇒440N/㎟×1/2=220N/㎟ との小さい方の為、160N/㎟となる。
- ②許容せん断応力は許容引張応の60%の為、160N/㎟×60%=96N/㎟となる。
- ③強度計算に用いる合計有効溶接長さは4×Lmmとなる。
- ④各種すみ肉溶接部ののど厚は5mm×0.7=3.5mmとなる。
- ⑤力を伝える有効のど断面積は③×④⇒4Lmm×3.5mm=14×Lmmとなる。
- ⑥(許容せん断応力×有効のど断面積)と引張荷重とが一致するLが回答となる。
⇒96×14×L=100×1000
⇒L=74.4047・・・
⇒小数点以下を切り上げて、75mm となる。
鋼管の有効溶接長の求め方
鋼管の有効溶接長の求め方は、単なる長さだけでなく、**溶接継手にかかる荷重(軸力・せん断・曲げなど)**と組み合わせて評価することが重要です。
以下に、構造設計や強度計算に基づく視点でわかりやすく解説します。
✅ 1. 有効溶接長とは?
有効溶接長(Effective Weld Length)は、実際に荷重を負担できる溶接の長さを意味し、溶接継手の許容耐力を求めるための基準になります。
✅ 2. 基本的な考え方(設計用)
📘 溶接耐力の基本式:
溶接耐力(N)= 有効溶接長(L)× 有効のど厚(h)× 許容せん断応力度(τa)
この式により、必要な有効溶接長を逆算できます。
✅ 3. 実用的な計算ステップ
🧮【ステップ1】:作用荷重の確認
例えば、軸方向の引張力 N=50 kNN = 50 \, \text{kN}N=50kN がかかるとします。
🧮【ステップ2】:使用する溶接種類の確認
例:隅肉溶接(フィレット溶接)
- のど厚 h=6 mmh = 6 \, \text{mm}h=6mm
- 許容せん断応力度(JISなどから)
⇒ τa=120 N/mm2\tau_a = 120 \, \text{N/mm}^2τa=120N/mm2
🧮【ステップ3】:必要な有効溶接長を計算
L=Nh×τa=50,0006×120=69.44 mmL = \frac{N}{h \times \tau_a} = \frac{50,000}{6 \times 120} = 69.44 \, \text{mm}L=h×τaN=6×12050,000=69.44mm
※必要有効長は 約70mm。
✅ 4. 鋼管の場合の有効溶接長の考え方
🔵 【円周溶接】
鋼管の接合部で周方向の全溶接を行う場合、有効長は以下:
L=π×D−2×無効長L = \pi \times D – 2 \times 無効長L=π×D−2×無効長
例:外径 D = 100mm、無効長 = 10mm × 2
→ 有効溶接長 = 3.14×100−20=294 mm3.14 \times 100 – 20 = 294 \, \text{mm}3.14×100−20=294mm
この 294mm を使って溶接耐力を算出できます。
🔶 【T継手・Y継手・斜め継手など】
これらでは、力のかかる方向と溶接位置がずれているため、応力集中や曲げ応力を考慮して評価する必要があります。
- 軸方向引張 → 有効長そのまま適用可能
- 曲げ → 応力分布に応じた評価
- せん断 → 溶接面に平行な応力の分布を計算
✅ 5. JIS・建築鉄骨設計基準との関係
指針 | 内容 |
---|---|
JIS Z 3602 | 溶接部の呼びのど厚と有効長の算定基準を定めている |
建築基準法告示 | 建築鉄骨の溶接長は用途に応じた設計値が明記されている |
鋼構造設計基準(JSSC) | 曲げ・軸力・せん断を考慮した継手強度の設計法を規定 |
✅ まとめ:鋼管の有効溶接長と荷重評価
項目 | 内容 |
---|---|
有効溶接長 | 溶接強度に寄与する長さ(通常は無効端を除く) |
溶接耐力 | L × h × τa で計算 |
必要有効長の算定 | 必要強度から逆算する( N / (h × τa) ) |
設計の注意点 | 溶接形状、力の向き、設計基準を反映すること |