マグ溶接と被覆アーク溶接の具体例(比較)

溶接法
40mm厚のSM490の下向き突合わせ溶接を、ソリッドワイヤを用いてマグ溶接を行う場合、被覆アーク溶接で行う場合に比べて施工上どのような長所、短所があるか
  • 【長所】
    大電流条件を適用でき高能率に作業できる
    高電流密度で溶着速度を大きくできる
    溶け込みが深い
    開先角度を狭くできる(所要溶接材料を低減できる)
    アークタイム率を向上できる(溶接棒の取替え不要)
    拡散性水素量が少なく、予熱温度を低くできる
    溶接材料の乾燥・保温が不要である
    スラグ除去が不要、または容易である
    システム化した自動溶接ができる(ロボットの適用など)
  • 【短所】
    防風対策が必要である
    操作性、可搬性で劣る
    シールドガスの供給、保管が不要である
    トーチ等で消耗部品が必要である

詳細説明

40mm厚のSM490鋼材に対し、下向き突合わせ溶接を行う場合、「ソリッドワイヤによるMAG溶接」と「被覆アーク溶接」にはそれぞれ施工上の長所・短所があります。


🔶 MAG溶接(ソリッドワイヤ使用)の長所

項目内容
高能率ワイヤが連続供給されるため、作業速度が速く、全体の溶接時間が短縮できる。40mmのような厚板では多層多道溶接になるため、特に有利。
自動化・半自動化が可能トーチの機械制御や溶接ロボットの使用が可能で、省力化や品質の均一化がしやすい。
作業者の負担が軽い被覆アーク溶接と異なり、電極交換の必要がないため、連続して作業できる。特に下向き姿勢では操作が容易。
アークの視認性が良好明るく安定したアークで溶融池の形状確認がしやすく、ビード形成が安定する。
スラグ除去不要スラグが発生しないか非常に少なく、後処理の工数が減る(※溶接中の清掃性が高い)。

🔷 MAG溶接の短所

項目内容
スパッタが多いCO₂系のMAGではスパッタの発生が多く、後処理や品質管理に注意が必要。
設備が必要溶接電源、送給装置、ガス供給装置など、被覆アークより装置が複雑・高価。
風の影響を受けやすいシールドガスが風に流されやすく、屋外や通風の強い場所での使用には注意が必要(気孔や酸化の原因)。
溶接欠陥のリスクワイヤの伸出長、ガス流量、トーチ角度の影響が大きく、適切な条件設定が必要。操作ミスで欠陥(アンダカット、未溶着、スパッタ固着)を生じやすい。

🔶 被覆アーク溶接の長所

項目内容
簡便な装備電源と被覆電極だけで作業が可能で、初期導入が安価。現場対応力が高い。
風に強い被覆材から発生するガスとスラグによってアークと溶融金属が保護されるため、屋外作業や高所作業に強い。
熟練者による高品質溶接が可能適切な技量を持つ溶接士が作業すれば、信頼性の高い接合ができる。

🔷 被覆アーク溶接の短所

項目内容
能率が低い電極交換・スラグ除去・アークの再始動が頻繁に必要で、作業効率が低い。
多層多道溶接に時間がかかる40mm厚のような厚板では多くの溶接パスが必要になり、作業時間が非常に長くなる。
スラグ処理が必要各層後にスラグを完全に除去しないと、スラグ巻き込みの欠陥が発生する恐れがある。
熟練者の技量に依存ビードの形成や欠陥の有無が作業者のスキルに大きく左右される。

✅ まとめ:MAG溶接 vs 被覆アーク溶接(40mm厚・下向き突合せ)

比較項目MAG溶接(ソリッドワイヤ)被覆アーク溶接
能率◎ 高い△ 低い
自動化◎ 可能× 困難
スパッタ△ 多い(CO₂系)○ 少ない
設備△ 専用機器が必要◎ シンプル
屋外作業△ 風の影響を受けやすい◎ 安定
スラグ除去◎ 不要× 必要
適用性◎ 量産・厚板に最適○ 修繕・現場作業に有利
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