許容応力の選択
継手に引張応力が作用する場合の許容応力は、完全溶け込み開先溶接の場合と、すみ肉溶接の場合で取り扱いが異なっている
- 完全溶け込み開先溶接 ⇒ 垂直応力(引張/圧縮)の許容応力で計算する
- すみ肉溶接 ⇒ せん断応力で計算する(引張応力の√3で割ったもの)
🔧 1. 許容応力の定義とは?
溶接部を含めた構造物が、外力(荷重、圧力、振動など)によって破損や永久変形を起こさないようにするため、材料の強度に「安全率(安全係数)」をかけて下げた応力値が許容応力です。
式で表すと
許容応力=材料の基準強度(引張強さや降伏点など)/ 安全率
🏗 2. 溶接部における許容応力の考え方
溶接では、次の3つの領域の強度を考慮する必要があります
領域 | 内容 |
---|---|
母材 | ベースとなる鋼材(例:SS400、SM490) |
溶接金属 | 溶接により添加された金属部分 |
熱影響部(HAZ) | 溶接の熱で性質が変化した母材の周辺部 |
これらのいずれかが弱ければ、溶接部全体としての強度が低下するため、最も弱い部分に合わせた許容応力が必要です。
🧩 3. 許容応力の具体例(一般鋼材の場合)
材料名 | 引張強さ(N/mm²) | 降伏点(N/mm²) | 許容引張応力(例) |
---|---|---|---|
SS400 | 約400 | 約245 | 約165~200 |
SM490 | 約490 | 約325 | 約225~275 |
※ 使用する規格(JIS、建築基準法、土木学会基準など)により数値は異なる。
🔩 4. 溶接形式による許容応力の違い
溶接形式 | 応力の方向 | 許容応力の対象 | 特徴 |
---|---|---|---|
完全溶け込み開先溶接 | 引張・圧縮・せん断 | 母材の許容応力 | 強度が母材と同等。高負荷部に使用される。 |
すみ肉溶接(フィレット) | 主にせん断方向 | せん断許容応力 | 欠陥に弱いが、簡便で広く使用される。 |
⚠️ 5. 設計時の注意点
- 許容応力は、実際に加わる応力(使用応力)がその値を超えないように設計する。
- 応力の計算には、断面積、有効長さ、荷重の種類などが関わる。
- 疲労、衝撃、腐食、高温などの環境下では、さらに低い許容応力が求められる。
📘 6. 許容応力に関する設計基準
溶接設計では以下のような基準を参照します:
- JIS(日本産業規格)
- 建築基準法施行令
- 土木学会「鋼構造設計基準」
- 溶接学会「溶接構造設計指針」
- AWS(アメリカ溶接学会)D1.1規格 など
✅ まとめ
- 許容応力は、構造の安全性を守るための設計値
- 材料強度 ÷ 安全率 により算出される
- 完全溶け込み溶接では「母材強度」が基準、すみ肉溶接では「せん断強度」が基準
- 使用応力が許容応力を超えないように設計する