母材熱影響部液化割れ | 多パス熱影響部で後続パスの熱影響によりMn、Sなどの低融点物質が融解して生じる割れ。ステンレス鋼に発生しやすく、炭素鋼や低合金鋼には発生し難い |
高温割れの一種である「母材熱影響部の液化割れ」について詳細説明
🔧 液化割れとは?
液化割れ(liquation cracking)とは、母材の熱影響部(HAZ)において、部分的に溶けた粒界(結晶の境界)が再凝固する際に割れる現象です。
これは溶接時の高温によって母材組織の一部が溶け、凝固の際に引張応力が加わって亀裂が生じる高温割れの一種です。
🔍 発生する場所と特徴
項目 | 内容 |
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発生位置 | 母材の熱影響部(HAZ) 特に溶接金属との融合部周辺の粒界 |
割れの方向 | 母材表面に沿って粒界に沿う細長い割れ |
特徴 | 溶接直後は目立たないこともあるが、応力や疲労で拡大することも |
🧪 発生のメカニズム(模式図)
溶接金属
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── ┴────────┴───── ← 母材
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熱影響部(HAZ)
→ 粒界が局所的に溶け → 再凝固 → 割れ発生
🧨 液化割れの主な原因
原因 | 説明 |
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🔸 母材の成分中に低融点元素(例:S, P, Si, Cu)が存在 | 粒界に偏析して融点が下がり、溶けやすくなる |
🔸 急激な加熱と冷却 | 粒界が溶けやすく、再凝固の際に収縮応力がかかる |
🔸 粒界に沿う偏析 | 元素や不純物が粒界に集中し、強度が低下する |
🔸 溶接金属との熱膨張係数の差 | 異材溶接などで応力集中が起こりやすくなる |
🛠 防止策
対策 | 内容 |
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✅ 適切な母材選定(低S・低P材) | 粒界が溶けにくい成分の鋼材を使う |
✅ 低熱入力での溶接 | 熱影響を最小限にし、粒界融解を抑える |
✅ 予熱・パス間温度の管理 | 熱応力を緩和し、割れの発生を防ぐ |
✅ 適切な溶接順序と拘束の軽減 | 溶接中の引張応力を軽減する配置や順序 |
✅ PWHT(溶接後熱処理) | 応力除去と再析出抑制に効果的(ただし材料に依存) |
✅ まとめ
項目 | 内容 |
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名称 | 液化割れ(Liquation Cracking) |
種類 | 高温割れの一種(母材の熱影響部) |
発生部位 | 溶接金属と母材の境界近くのHAZ |
主な原因 | 粒界偏析+引張応力+急冷 |
防止策 | 材料選定、熱入力制御、拘束の回避、PWHTなど |