シェフラ組織図(Schaeffler diagram)は、溶接金属中の組織予測に使われる二元組織図です。特にフェライト・オーステナイト・マルテンサイトの相対量の予測に有効で、異種金属溶接(例:炭素鋼+SUS)や肉盛溶接で重要な役割を果たします。
🔍【1. シェフラ組織図とは?】
- 化学組成(主にCr、Ni、C、Mnなど)をクロム当量(Cr_eq)とニッケル当量(Ni_eq)に換算し、座標上に点を打つことで、溶接金属の組織(フェライト・オーステナイト・マルテンサイト)を予測します。

📐【2. クロム当量・ニッケル当量の計算式】
● クロム当量
金属組織に及ぼすフェライト形成元素(Cr、Si、Mo、Nb)の作用をCr量に換算した当量。(金属組織に及ぼす各合金元素の影響をCr量に換算した値)
Cr当量の式:Cr当量=Cr+1.5+Si+Mo+0.5Nb
● ニッケル当量
金属組織に及ぼすフェライト形成元素(Ni、Mn、C)の作用をNi量に換算した当量。(金属組織に及ぼす各合金元素の影響をNi量に換算した値)
Ni当量の式:Ni当量=Ni+0.5Mn+30C
🧬【3. 組織区分(図上の領域)】
シェフラ図では、点を打った位置によって以下のような組織が予測されます:
組織領域 | 特徴 |
---|---|
オーステナイト(γ) | 高Ni_eq・低Cr_eq領域。延性に優れ、加工性が良いが、熱割れ感受性が高い。 |
フェライト+オーステナイト | 最も望まれる溶接金属組織(例:δ:10–15%)→ 熱割れに強く、靭性も確保。 |
マルテンサイト(α′) | 高Cr・低Ni・高C領域。硬くて脆く、割れやすい。炭素鋼や低合金鋼に多い。 |
フェライト単相 | 高Cr_eq・低Ni_eq。延性は低いが、熱割れに強い。 |
💡【4. 使用の目的】
- 異材溶接(例:炭素鋼とステンレス)で、溶接金属が割れないようにする
→ 熱割れを防ぐには5〜15%程度のフェライトがあるとよい - 溶接金属の硬化・脆化を予測して回避策をとる
- 適切な溶加材(溶接棒・ワイヤ)の選定に活用
🛠️【5. 使用手順】
- 母材・溶加材の成分を調べる(質量%)
- Cr_eqとNi_eqを計算する
- シェフラ図上にプロットする
- 該当する組織を確認
- 必要に応じて、溶加材を調整して、望ましい組織(例:オーステナイト+フェライト)に導く
📝【補足】シェフラ図の派生
- デロン(DeLong)組織図:窒素の影響も考慮。より現実に近い。
- ウエルド・フェライト図(WRC-1992など):近年はこちらの使用も一般的。
📘例:SUS304と炭素鋼の肉盛り
- SUS304:Ni ≈ 8%、Cr ≈ 18%、C ≈ 0.06%、Mn ≈ 2%
- 炭素鋼:Ni ≈ 0%、Cr ≈ 0%、C ≈ 0.2%、Mn ≈ 0.8%
両者の混合(例:希釈率50%)を仮定し、混合成分を平均してCr_eqとNi_eqを計算→シェフラ図で点を打つことで、肉盛り溶接金属の組織を予測できます。