溶接におけるタブ材(タブプレート/タブピース)は、溶接の始端や終端に付加される補助材であり、主にアーク溶接(特に自動溶接やTIG溶接、サブマージアーク溶接など)で使用されます。タブ材は製品そのものには含まれませんが、溶接品質を安定させる重要な役割を果たします。
🔧【タブ材の主な役割】
1. 始端・終端の溶接品質確保(アークスタート/ストップの安定)
● 問題点:
- 溶接の始点や終点は、アークの不安定・ビード幅のばらつき・欠陥(クレーター、ブローホール、アンダーカットなど)が発生しやすい。
● タブ材の役割:
- 製品部以外でアークスタート・アークストップを行うことで、本体部分の溶接品質を確保。
- 終端でクレーターや溶け落ちを防止できる。
2. ビード形状の均一化
- 開始直後や終了間際のビードは不安定になるため、タブ材を使用することで製品部のビード形状を美しく均一に保てる。
- 特に外観検査やX線検査が必要な箇所では重要。
3. 自動溶接の支援
- 自動溶接では、トーチの移動速度や電流がプログラムされた条件で一定になるが、アークが安定するまでに時間がかかる。
- タブ材を使うことで、プログラムの初期不安定を吸収し、本体には安定した条件で溶接がかかる。
4. 溶接欠陥の抑制
- ブローホール・ピット・クレーター割れなどの欠陥は、始端・終端に集中する傾向がある。
- 欠陥をタブ材側に発生させることで、製品への影響を最小限にする。
5. 溶接長さの確保
- 溶接規格(例:JISやASME)では、特定の溶接長さを求めることがあり、端部の立ち上がり・終わり部分を含めて規定通りの長さを確保するためにタブ材が必要。
📐【使用例】
溶接方法 | タブ材の使用頻度 | 理由 |
---|---|---|
サブマージアーク溶接(SAW) | 非常に高い | アークスタートの不安定さを吸収 |
MIG/MAG(GMAW) | 高い | トーチ移動の安定性とビード品質の確保 |
TIG(GTAW) | 中〜高 | 特に自動・ロボットTIGでは重要 |
手溶接(アーク溶接) | 低〜中 | 熟練者なら不要な場合もあるが、品質重視なら使用する |
📎【設計・使用上のポイント】
- タブ材の材質は母材と同等または溶接条件に適したものを選定する。
- タブ材と母材の接触部は、密着していること(隙間があると欠陥の原因)。
- 溶接後、タブ材はグラインダなどで除去される。
- タブ材の**寸法(長さ・幅・厚み)**は、アーク安定・トーチ挙動を考慮して十分にとる。
- タブ材が母材より劣る材料や汚れていると不良発生の原因になるため、事前に清掃・準備が重要。
🔄【類似概念】
補助材 | 主な目的 |
---|---|
タブ材 | 始端・終端の溶接品質確保 |
スタート板 | スポット溶接などで電極が安定するまでの吸収 |
バッキング材 | 裏波溶接の溶融金属支え・溶け落ち防止 |
バー材(Run-on/Run-off tabs) | 同義語。英語圏でよく使われる |
✅【まとめ】
タブ材は一見地味ですが、溶接品質・外観・溶接強度を大きく左右する重要な補助材です。特に高品質・高精度が求められる構造物(圧力容器、配管、航空機など)ではほぼ必須の要素となっています。
具体的例
鋼板のアーク溶接で突合わせ継手の両端部に鋼製のタブ板を取り付けた。鋼製タブ板の効果とその内容を説明する。
効果と説明①
- 効果
- 始終端部の溶接欠陥の防止
- 説明
- 溶接始端には溶け込み不良、融合不良、ブローホールなどが、溶接終端にはクレータ割れ、溶接不良などが発生する可能性が高い。そこで、タブ板上に始終端部を形成する
効果と説明②
- 効果
- ビード形状の均一化
- 説明
- ビードの始端部では溶接金属の冷却条件が異なることや、終端では溶着量が不足することなどの、ビードの整形が難しく、ビード計上不良が発生しやすい。タブ板上に始終端部を形成し、本溶接ビード計上の均一化を図る
効果と説明③
- 効果
- 磁気吹き防止
- 説明
- 母材端部では時期吹きが発生しやすいので、母材端部での磁場を対象にするためにタブ板を取り付ける
効果と説明④
- 効果
- 終端割れ防止
- 説明
- タブ板を母材に強固に取り付け、本溶接での回転変形を抑制して終端割れを防止する