溶接の外観試験(VT:Visual Testing)は、溶接部の品質を確認するための最も基本的かつ重要な非破壊検査(NDT)です。溶接完了後に、肉眼または補助器具を用いて目視で欠陥の有無を調べる検査手法です。
🔍 1. 外観試験(VT)とは?
**Visual Testing(VT)**とは、人の視覚を利用して溶接部の状態を観察し、外観上の欠陥や異常を確認する方法です。
特殊な装置を必要とせず、低コスト・迅速・簡便であるため、全ての溶接構造物で最初に実施される検査です。
📋 2. 主な検査対象(検出可能な欠陥)
VTでは以下のような溶接部の表面欠陥を確認できます。
欠陥名 | 説明 |
---|---|
クレータ | 溶接終端部に残った浅い凹み |
オーバーラップ | 溶融金属が母材上に乗って固まった状態(融合不足) |
アンダーカット | 母材の溶けすぎにより溝状のくぼみができる欠陥 |
ポロシティ(ブローホール) | 表面に開口している小さな気泡や孔 |
クラック(ひび割れ) | 溶接部に生じる破壊の起点となる割れ |
溶け込み不良 | ビードが母材と正しく融合していない状態(視認できる場合) |
焼け | 過熱による酸化変色や過剰な熱影響 |
🛠 3. 使用する機器・補助具
機器 | 用途 |
---|---|
裸眼・拡大鏡 | 通常の観察、細部の確認(×2~×10) |
溶接ゲージ | ビード幅・高さ、アンダーカット深さなどの測定 |
ルーペ(マグニファイヤ) | 微細な欠陥を拡大して確認 |
定規・ノギス | 溶接サイズや配置精度の確認 |
照明(LEDライト) | 光量を確保し、影や暗部を確認しやすくする |
ミラー | 死角や裏面の確認(T字継手の裏など) |
📏 4. 評価項目(検査基準)
外観試験で確認される主な寸法や外観基準には次のようなものがあります:
項目 | 判定基準例(※JIS, AWS等) |
---|---|
ビード幅・高さ | 図面やWPS(溶接施工要領書)に準拠 |
アンダーカット | 深さ0.5mm以下(使用規格による) |
クラック | いかなる大きさでも不合格 |
オーバーラップ | 明確に認識される場合は不合格 |
ピット(すき間) | 連続または群発的なら不合格 |
スパッタ | 量が多く除去困難な場合は不合格 |
各種の基準は、JIS Z 3001やAWS D1.1、ISO 5817などで規定されています。
🧪 5. 実施タイミングとフロー
外観試験は溶接工程の各段階で行われます。
段階 | 検査内容 |
---|---|
溶接前 | 開先の形状・寸法、清浄度、材質確認 |
溶接中 | 各パスのビード状態、溶接条件のチェック |
溶接後 | 最終ビードの外観、寸法、欠陥の有無確認 |
📎 6. メリット・デメリット
メリット | デメリット |
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・簡便・迅速・安価に実施可能 | ・内部欠陥(内部割れ・ブローホール等)は検出できない |
・すべての構造物に適用できる | ・検査員の技能により結果にばらつきが出る |
・初期検査として非常に有効 | ・明るさや視界状況に依存する |
👤 7. 検査員の資格と技能
目視検査には、以下のような資格や知識が要求されます:
- JIS Z 2306(非破壊試験技術者の資格制度)VTレベル1〜3
- ISO 9712認証(国際標準のNDT技術者認証)
- AWS認定溶接検査官(CWI)
- 溶接法、欠陥形態、図面読解、照明環境の知識など
✅ 8. まとめ
項目 | 内容 |
---|---|
名称 | 外観試験(VT:Visual Testing) |
方法 | 肉眼または拡大鏡・照明を用いて欠陥を目視確認 |
対象 | 溶接ビードの外観・寸法・表面欠陥 |
検出欠陥 | クラック、アンダーカット、オーバーラップ、スパッタ等 |
メリット | 低コスト、迅速、初期確認に最適 |
制限 | 内部欠陥は検出不可、技能差あり |