アークとは

基礎知識

溶接の「アーク」とは、電極と母材の間に発生する電気的な放電現象であり、金属を溶かして接合するための高温の熱源として利用される。アークは、電極と母材の間に電圧をかけて一瞬接触させ、引き離したときに発生する。このとき空気中のガスが電離してプラズマ状態になり、導電性を持つ高温の気体が形成される。これがアークであり、局所的に約4,000〜20,000℃もの高温を発生させる。この高熱を利用して金属同士を溶かし、冷却・凝固させることで溶接が行われる。

アーク溶接は、金属を強固に接合できることから、多くの産業分野で広く使用されている。建築、造船、自動車、機械、鉄道など、あらゆる分野で必要とされる技術である。アーク溶接にはいくつかの種類があり、作業条件や対象材料に応じて使い分けられている。

最も基本的なアーク溶接法は「被覆アーク溶接(Shielded Metal Arc Welding, SMAW)」である。これは電極棒自体に被覆剤が付いており、アークが発生すると同時に被覆剤が気化して保護ガスやスラグを生成し、溶接部を酸化や窒化から守る。この方法は機械が少なく、屋外でも作業できるため、メンテナンスや建設現場などで広く利用されている。

一方で、高精度が求められる場合には「TIG溶接(Tungsten Inert Gas Welding)」が使われる。これは非消耗性のタングステン電極を使用し、アルゴンなどの不活性ガスでアークと溶接部を保護する。熱源と溶加材の供給が独立しているため、制御性に優れており、薄板や高合金鋼、アルミニウムなどの溶接に適している。

また、「MIG溶接(Metal Inert Gas Welding)」や「MAG溶接(Metal Active Gas Welding)」は、ワイヤを連続供給しながら行う半自動・自動化に向いた溶接法である。前者は不活性ガスを、後者は二酸化炭素などの活性ガスを使用する。いずれも効率が高く、生産現場で広く使われている。

アーク溶接のメリットは、強力な接合力と高い作業効率である。しかし、同時にいくつかの注意点も存在する。アークは激しい光、紫外線、熱、スパッタ(溶けた金属の飛散)を発生させるため、作業者には遮光面、耐熱手袋、防護衣などの保護具が必須である。また、作業中に発生するヒューム(煙)や有害ガスへの対策として、十分な換気や集塵装置の使用も重要である。

アークは電気エネルギーを熱に変換して金属を溶かすが、このとき発生する光と音、熱は非常に強力である。特にアーク光に含まれる紫外線は「アーク眼」と呼ばれる角膜炎を引き起こす可能性があり、作業者や周囲の人にまで影響を与える。そのため、安全対策は溶接作業において最も重要な要素の一つである。

アーク溶接は、現代の製造・建設技術の基盤とも言える技術である。多様な溶接法が存在し、それぞれに適した材料や条件があるため、溶接技術者はそれらを理解し、適切に使い分ける必要がある。また、品質管理や安全管理の面でも高い専門性が求められる。アークという自然現象を人間の技術として活用するこの溶接法は、今後も広く進化と応用が期待される分野である。

⚙️ アークの発生原理

  1. 電源を接続する(直流または交流)。
  2. 電極と母材が一瞬接触し、そこから引き離すと「アーク放電」が始まる。
  3. アークによる熱で、電極と母材が溶けて溶融池(ようゆうち)ができる。
  4. 溶融池が冷えると、接合される。

🔧 主なアーク溶接の種類

種類特徴用途
被覆アーク溶接(SMAW)手動、電極に被覆剤あり建築、配管、修理など
TIG溶接(タングステン・イナート・ガス)高品質、難しい、非消耗電極精密機械、ステンレス、航空部品
MIG溶接(金属イナートガス)ワイヤ連続供給、自動化向き車体、薄板金属
MAG溶接(金属活性ガス)MIGのガスがCO₂系製造業全般
サブマージアーク溶接(SAW)粉状フラックスでアークが隠れる厚板の大量生産向け

📌 アークの特徴

  • 高温熱源:金属をすばやく溶かせる。
  • 局所的加熱:熱の影響が限定される。
  • 光・熱・紫外線を放つ:保護具(遮光面など)が必須。
  • スパッタ(飛び散り):清掃や仕上げに影響。
  • 騒音・煙の発生:換気や防音が必要な場合も。

⚠️ 安全上の注意

  • 遮光面・手袋・前掛けなどの防護具は必須。
  • 紫外線による目の炎症(アーク眼)に注意。
  • 火傷・感電・有害ガスへの対策を徹底。
  • 十分な換気設備が必要。

🧪 補足:アークとプラズマの関係

アーク放電は**プラズマ状態(高温で電離した気体)**を伴うため、アークは「低温プラズマ」の一種とも言えます。この性質により、高い熱伝導性と安定した加熱が得られます。


🏭 アーク溶接の活用例

  • 建設業(鉄骨構造物)
  • 自動車製造(車体フレーム)
  • 船舶・鉄道(大構造物の接合)
  • 機械部品の修理・再生
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