タック溶接

溶接法
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厚板高張力鋼突合わせ継手の被膜アーク溶接を行う場合の、タック溶接作業の基準

  • 溶接技術者:本溶接で必要な技術資格を有する者を原則とする
  • 溶接材料:本溶接で使用する被覆アーク溶接棒と同一のものを原則とする
  • 予熱温度:本溶接で適用する予熱温度より30-50℃高い温度とする
  • ビード長さ:最小長さを40mm-50mm程度とする
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詳細説明

タック溶接(Tack Welding)は、本溶接(本番の溶接)を行う前に、部材同士の位置合わせや仮止めのために施す、短く限定的な溶接のことを指します。日本語では「仮付け溶接」とも呼ばれ、特に精密さや高強度を求められる製品の製造工程においては、作業の品質や効率を大きく左右する重要なプロセスです。


1. タック溶接の目的

タック溶接は単なる準備作業ではなく、後工程の品質を支える重要な役割を担っています。主な目的は以下の通りです。

(1) 位置ずれの防止

溶接中、部材は熱によって膨張・収縮を繰り返します。この熱変形によって、部材の位置がずれてしまうことを防ぐために、事前にタック溶接で固定します。

(2) 組立精度の確保

溶接構造物では、部材間の寸法や角度などの精度が重要です。タック溶接によって事前に正しい位置・姿勢で固定することで、誤差の少ない本溶接が可能になります。

(3) 作業効率の向上

部材を仮止めしておくことで、溶接中の補助具や冶具の使用を最小限に抑えることができ、作業の手間が減少します。

(4) 製品の一貫性の確保

全ての部材が決められた位置にあることで、複数品の生産においても一貫性のある品質が保証されます。


2. タック溶接の方法と工程

タック溶接は、本溶接と同じ溶接機器を使用して行うことが多く、以下のような手順で行われます。

(1) 部材の位置合わせ(フィッティング)

治具やクランプを使用して、正しい位置と角度に部材を配置します。

(2) タックの打点を決定

適切な間隔(ピッチ)で、タックの位置を決定します。部材の大きさや形状、変形のしやすさによって調整が必要です。

  • 一般にピッチは50~200mm程度
  • 板厚が薄い場合や変形が懸念される場合はピッチを狭める

(3) タック溶接の実施

必要な電流・電圧設定で数ミリ程度の短い溶接を行います。通常は1~2秒程度の溶接で、ビード長さは5~15mm程度が目安です。

(4) 本溶接へ移行

タックが確実に部材を固定していることを確認し、本溶接を実施します。必要に応じてタック溶接部を取り除くか、そのまま本溶接の一部として含める場合もあります。


3. タック溶接の注意点

タック溶接が不適切に行われると、本溶接の品質に大きく悪影響を及ぼします。以下の点に注意が必要です。

(1) タック部の割れ

急冷や応力集中によってタック溶接部に割れが生じることがあります。この割れは本溶接時に進展してしまい、最終製品に重大な欠陥を引き起こす可能性があります。

対策:

  • 適切な電流設定で短時間の溶接
  • 予熱を行う(特に高硬度材や厚板)

(2) 溶け込み不足

タックの強度が弱く、搬送中に部材が外れてしまう場合があります。

対策:

  • 十分な溶け込みを確保する
  • タックの長さを適切に保つ

(3) タック部の清掃不足

タック溶接部のスパッタやスラグを除去せずに本溶接をすると、融合不良や欠陥が発生します。

対策:

  • 本溶接前にワイヤーブラシやグラインダーで清掃
  • スラグの完全除去

(4) 本溶接との干渉

本溶接のビード形成を妨げるような位置にタックがあると、見栄えや強度に悪影響を及ぼします。

対策:

  • タック位置は溶接線の始端または重ね部に配置
  • 必要に応じて削除してから本溶接する

4. タック溶接の種類

用途や母材によって、タック溶接にもさまざまな方法があります。

種類概要適用
アークタック被覆アークやTIG、MIGによる小規模アーク溶接精度重視・板金
スポットタック抵抗溶接機で点溶接自動車や薄板組立
ガスタックガス溶接によるタック小規模補修や現場施工
溶接ワイヤー留めワイヤーを使って手作業で縛る仮止め木型や配管

5. タック溶接と本溶接の関係

良質な本溶接を行うには、適切なタック溶接が不可欠です。特に大型構造物や長尺部材では、タックの配置と精度が全体の組立精度を左右します。また、タック部を本溶接の一部として取り込む場合は、タックの品質も最終的な接合強度に影響を及ぼすため、確実な溶接操作が必要です。


6. まとめ

タック溶接は、溶接工程における“仮の作業”でありながら、製品全体の品質を左右する“本質的な作業”です。適切なタック溶接は、溶接時の変形を防ぎ、作業の効率と精度を高めます。逆に不適切なタックは、割れや融合不良といった重大な溶接欠陥を引き起こすため、十分な知識と経験を持って実施することが求められます。

タック溶接の技術は、熟練溶接工のノウハウに支えられてきた分野でもあり、今後はロボット溶接やAIによる最適配置技術の導入によって、さらなる高精度・高効率化が期待されます。

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