低温用鋼
- 低炭素アルミキルド鋼:降伏点235N/㎟、325N/㎟、365N/㎟、410N/㎟があり、低強度材は焼きならし処理、高強度材は焼き入れ・焼き戻し処理(または直接焼入れ・焼き戻し処理)で製造される
- 2.5%Ni鋼:焼きならし鋼の場合、最低使用温度はそれぞれ-70℃、-101℃である(焼き入れ・焼き戻し3.5%Niの最低使用温度は-110℃)。
- 3.5%Ni鋼:焼きならし鋼の場合、最低使用温度はそれぞれ-70℃、-101℃である(焼き入れ・焼き戻し3.5%Niの最低使用温度は-110℃)。
- 9%Ni鋼:焼き入れ・焼き戻し処理、または焼き入れ-中間焼き入れ-焼き戻しの3段熱処理で製造され、その最低使用温度は-196℃である
- オーステナイト系ステンレス鋼
- インバー合金
必要とされる性質
- 低温用鋼は低温におけるぜい性破壊に対する抵抗が優れていることが必須条件である。一般低温用鋼、G種(General use)、はぜい性破壊発生抵抗が保証されている。脆性破壊発生抵抗に加え、き裂伝播を阻止するいわゆる二重安全性を保障するA(Arrest use)種がある
詳細説明
低温用鋼とは
低温用鋼とは、極低温環境(たとえば、-196℃の液体窒素温度やそれに近い温度域)でも優れた靭性(じんせい)を保持し、脆性破壊を防止できる鋼材のことです。一般的な鋼は低温になると脆性化(割れやすくなる現象)が進みますが、低温用鋼は特別な合金設計や熱処理により、低温下でも十分な強度と靭性を確保しています。
低温用鋼の必要性
液化ガス貯蔵タンク、極低温パイプライン、LNG(液化天然ガス)設備、航空機や宇宙開発の構造材など、低温環境で安全に使用するために不可欠です。低温での脆性破壊を防ぎ、長期間の耐久性を確保するために、材料選定が非常に重要となります。
低温用鋼の特徴
- 靭性の保持:衝撃試験(シャルピー試験など)において、極低温下でも高い吸収エネルギーを示す。
- 脆性転移温度の低さ:材料の脆性転移温度(靭性が急激に落ちる温度)が非常に低い。
- 高強度かつ加工性良好:十分な引張強度と伸びがあり、加工や溶接がしやすい。
- 耐食性の向上:環境によっては耐腐食性が求められる場合もある。
代表的な低温用鋼の種類
1. 低温用炭素鋼(低合金鋼)
- 用途例:液化天然ガス(LNG)貯蔵タンクや低温パイプライン
- 特徴:
- 炭素量を低く抑え(0.1%以下)、ニッケルやモリブデンなどの合金元素を添加して靭性を向上。
- Ni(ニッケル)を2~5%程度添加することで、-196℃でも靭性を保つ。
- 代表的な鋼種として、ASTM A333 Grade 6、A350 LF2などがある。
2. ニッケル鋼(Ni鋼)
- 特徴:
- ニッケル含有量が5%~9%程度と高く、極めて低温でも靭性が優れる。
- -196℃でもシャルピー吸収エネルギーが高く、耐脆性破壊性に優れる。
- 米国の9Ni鋼(Ni約9%)はLNGタンクの主要材料として世界的に使われる。
3. マルテンサイト系ステンレス鋼
- 用途:極低温用途ではあまり一般的ではないが、耐食性と強度を両立しつつ低温特性を持つものもある。
- 特徴:
- ステンレスの中では靭性が劣るが、一部の特殊合金が低温向けに開発されている。
4. オーステナイト系ステンレス鋼
- 特徴:
- オーステナイト組織は低温で脆くならず、耐低温性に優れている。
- SUS304、SUS316などが一般的に低温環境で使用される。
- ただし、コストは炭素鋼や低合金鋼より高い。
低温用鋼の分類規格例
JIS規格
- JIS G 3116(低温用炭素鋼鋼管)
- JIS G 3117(低温用合金鋼鋼管)
ASTM規格
- ASTM A333/A333M:低温サービス用炭素および低合金鋼鋼管
- ASTM A350 LF2:低温用鍛鋼品
- ASTM A553:低温用ニッケル鋼
低温用鋼の設計・合金元素の役割
- 炭素(C):強度を高めるが、靭性を低下させるため極力低減。
- ニッケル(Ni):靭性を大きく向上させ、脆性転移温度を低下。
- モリブデン(Mo):耐食性と強度向上に寄与。
- クロム(Cr):耐食性や硬さの向上。
- マンガン(Mn):脱硫剤として役割を果たし、強度向上に寄与。
低温用鋼の溶接と管理
低温用鋼は溶接工程においても特別な管理が必要です。
- 予熱と後熱を適切に行い、割れの発生を抑制。
- 低水素系溶接材料の使用で水素脆性を防止。
- 非破壊検査で割れや欠陥の早期発見。
まとめ
低温用鋼は、低温環境での安全性と耐久性を確保するために、合金設計と熱処理により脆性破壊を防ぐ特別な鋼種です。代表的なものはニッケル含有の低合金鋼であり、用途に応じてステンレス鋼も使用されます。規格に基づいた材料選定と溶接管理が、低温環境下での信頼性を左右します。