冷間圧延

冷間圧延とは?

冷間圧延(Cold Rolling)とは、鋼材を常温(室温)またはそれに近い温度で圧延加工する方法で、主に高精度な薄鋼板や高品質の仕上げが求められる製品に使用されます。これは、熱間圧延された鋼板を母材として、常温でさらに圧延することで、表面性状や寸法精度を向上させ、強度などの機械的性質も調整する工程です。


鉄の製造と冷間圧延の位置づけ

鉄の作り方は大きく以下の流れで行われます:

  1. 製錬:鉄鉱石を還元して銑鉄を得る(高炉など)。
  2. 製鋼:銑鉄から不純物を除去し、鋼にする(転炉・電気炉など)。
  3. 連続鋳造:溶けた鋼をスラブなどに鋳造。
  4. 熱間圧延:鋳造されたスラブを高温で圧延して薄板(熱延鋼板)に。
  5. 冷間圧延:熱延鋼板を常温でさらに薄く・滑らかに圧延する。

冷間圧延は、最終製品に近い形状と性能を得る仕上げ加工工程であり、寸法精度、表面品質、機械的性質が特に重視される分野で用いられます。


冷間圧延の工程

冷間圧延は、以下のようなプロセスで行われます。

1. 酸洗(ピックリング)

熱間圧延鋼板の表面には、スケール(酸化被膜)が付着しています。これを塩酸や硫酸などで除去するのが酸洗工程です。スケールを除去しないと、圧延ロールに傷を付けたり、製品表面に欠陥を生じる可能性があるため、重要な前処理工程です。

2. 圧延(冷間圧延機)

酸洗後の鋼板を常温で複数のロールで圧縮・延伸しながら目的の厚さまで加工します。この際、非常に薄く高精度に仕上げることが可能で、0.1mm以下の極薄板も製造されます。加工中には、金属の結晶構造が変化し、**加工硬化(かこうこうか)**が起こって強度が増しますが、延性は低下します。

3. 焼鈍(アニール)

冷間圧延によって硬くなった鋼板を、再加熱(600~800℃程度)して結晶を再生し、加工硬化を除去する工程です。これにより延性や加工性が回復し、次の工程(曲げ、深絞りなど)に適した材料性が得られます。

4. 仕上げ圧延(テンパーロール圧延)

焼鈍後の鋼板に、軽い圧延を加えて表面の平滑化や寸法安定性を付与する工程です。これをテンパー圧延と呼びます。しわや波うちを防ぎ、平らな鋼板に仕上げます。


冷間圧延の特徴

■ 表面が非常に滑らかで美しい

冷間圧延では、スケールが除去された状態で圧延するため、表面に光沢があり、滑らかです。自動車の外板や家電製品など、見た目が重視される分野で重宝されます。

■ 寸法精度が高い

常温で加工されるため、変形後の寸法変化が少なく、板厚の均一性が高いのが特徴です。高い精度を求められる部品や素材に適しています。

■ 強度が高くなる(加工硬化)

圧延の過程で金属内部の結晶構造が変化し、引張強さや降伏強さが向上します。一方で、延性は低下するため、使用目的に応じて焼鈍処理を組み合わせる必要があります。


冷間圧延製品の主な用途

冷間圧延鋼板(Cold Rolled Steel Sheet)は、以下のような分野で幅広く使用されています。

  • 自動車部品:ボディパネル、フレーム、内装金具など
  • 家電製品:冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなどの筐体
  • 建材:屋根材、内装材、軽量鉄骨など
  • 鋼管用母材:精密機器に使われる冷間引抜鋼管など
  • プレス部品やバネ鋼:ばね、工具部品、精密部品

冷間圧延と熱間圧延の違い

比較項目冷間圧延熱間圧延
加工温度常温(またはそれに近い温度)再結晶温度以上(1000℃前後)
表面仕上げ光沢があり滑らか比較的粗く黒皮が付着
寸法精度高いやや粗い
強度高い(加工硬化による)比較的低い(必要なら焼入れが必要)
用途精密部品、外装材建材、構造材、厚板製品など

注意点と制限

冷間圧延は高精度・高品質な鋼板を作れる一方で、以下のような制限もあります。

  • 加工硬化により延性が低下するため、曲げや深絞りには焼鈍が必要
  • 熱間圧延より加工エネルギーが大きく、コストが高くなる
  • 加工可能な板厚の範囲が限定される(極厚材には不向き)
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