考察例
軟鋼を用いた図のようなT継手がある。図(a)は完全溶け込み溶接で、図(b)はすみ肉溶接で作成している。それぞれのT継手にせん断荷重が作用するとき、許容される荷重Pを求めよ次に、図(a)と図(b)の許容荷重を等しくする脚長Sを求めよ。ただし母材および溶着金属の降伏応力=240N/㎟、母材及び溶着金属の引張強さ=400N/㎟とし、許容引張応力は降伏強さの1/1.5と引張強さの1/4のうちの小さい方の値、 許容せん断応力は許容引張応力の0.6倍とする。なお、曲げおよび応力集中は考慮しなくてもよい。1/√2=0.7として計算せよ

回答手順
- ①図(a)の有効のど厚面積は5×200×2=2,000㎟となる。
- ②図(a)の許容引張応力は240×1/1.5>400×1/4 ⇒ 160>100 ⇒100N/㎟となる。
- ③図(a)の許容せん断応力は100×0.6=60N/㎟となる。
- ④図(a)の許容荷重はP=2,000㎟×60N/㎟⇒P=120kNとなる。
- ⑤図(b)ののど厚は0.7S㎟となる。
- ⑥図(b)の有効のど厚面積は0.7S×200×2=280S㎟となる。
- ⑦図(b)の許容せん断応力は図(a)と同じため、60N/㎟となる。
- ⑧図(b)の許容荷重はP=280S㎟×60N/㎟⇒P=16.8SkNとなる。
- ⑨図(a)と図(b)の引張荷重が等しくなる条件は、120=16.8Sとなる。
- ⑩以上より、S=7.14
⇒小数点以下を切り上げて、S=8mm となる。
詳細説明
■ 荷重計算の基本式(せん断荷重)
◉ 記号の定義:
- P:作用荷重(N)
- L:溶接長さ(mm)
- a:隅肉溶接サイズ(脚長、mm)
- τ:せん断応力(N/mm²)
- A:溶接断面積(mm²)
◉ 有効断面積(隅肉溶接)
隅肉溶接の有効断面積 A は、溶接長さとのど厚( throat thickness)を使って次のように求めます: A=L⋅h
のど厚 h は、脚長 a に対して以下の関係があります: h=0.707⋅a
したがって、 A=L⋅0.707⋅a
◉ 溶接部のせん断応力
作用荷重 P を受けたときのせん断応力 τ は
τ= P/A = P/0.707⋅a⋅LP
■ 許容応力と安全率
実設計では、溶接部が破壊しないようにするため、許容せん断応力(例えば、JISやAWS規格による値)以下に抑える必要があります。
例(炭素鋼、被覆アーク溶接)
- 許容せん断応力 τallow ≒ 120 N/mm²(目安)
許容荷重の計算式
Pallow=τallow⋅0.707⋅a⋅L
■ 計算例
条件
- 脚長 a=6 mm
- 溶接長さ L=100 mm
- 許容せん断応力 τallow=120 N/mm²
計算:
Pallow=120⋅0.707⋅6⋅100=50832 N(約50.8kN)
つまり、このT継手は最大約50.8kN(約5トン)の荷重に耐えることができます。
■ その他の力の考慮
T継手には次のような複合荷重がかかる場合があります。
- 曲げモーメント:部材の先端に偏心荷重がかかると発生。
- 引張/圧縮応力:溶接部を垂直に引っ張るような荷重。
- ねじり応力:部材に回転モーメントが加わると生じる。
これらが加わると、応力の合成や応力集中係数などを加味した設計が必要になります。
■ 注意点
- 実際の溶接設計では、安全率(通常2~3程度)を加味します。
- 疲労荷重(繰り返し荷重)がある場合は、より厳しい基準が適用されます。
- 応力集中や欠陥(ブローホール・未溶込み)の影響も考慮が必要です。
- 必要に応じて、非破壊検査(UT, PTなど)を行い、健全性を確認します。
■ まとめ
T継手にかかる荷重計算の基本は、隅肉溶接の有効断面積を求めて、そこに生じる応力を評価することです。荷重が許容せん断応力を超えないように設計し、安全率や使用条件(疲労、衝撃など)を考慮して最終的な判断を行います。