異材溶接(炭素鋼とステンレス)における電位差とガルバニック腐食を考慮したWPSの制限事項

スポンサーリンク
スポンサーリンク

異材溶接におけるガルバニック腐食抑制:WPS・PQR策定の実践的ガイド

炭素鋼(CS)とステンレス鋼(SS)の異材溶接は、化学プラント、発電設備、建築構造物において避けて通れない接合形態である。しかし、この接合部には「電位差による電食(ガルバニック腐食)」および「希釈による組織脆化」という二重のリスクが潜む。本稿では、溶接管理技術者の視点から、これらを制御するためのWPS(溶接施工要領書)の作成指針を詳説する。

1. 異材溶接における冶金学的課題とメカニズム

電位差とガルバニック腐食の原理

異種金属が電解質溶液中で接触すると、卑な電位を持つ金属(炭素鋼)がアノードとなり優先的に腐食する。溶接部においては、溶着金属の成分が希釈により化学組成が変化し、局所的な電位差が生じることで、溶接止端部や熱影響部(HAZ)における激しい腐食(選択的腐食)を誘発する。

希釈率(Dilution)の制御

異材溶接では、母材(CSおよびSS)が溶融池に混入する「希釈」が発生する。特に炭素鋼側の鉄(Fe)成分が多量に溶け込むと、溶着金属中のクロム(Cr)やニッケル(Ni)濃度が低下し、本来の耐食性が損なわれる。

  • リスク: 希釈により溶接金属が「マルテンサイト組織」となり、硬化・脆化および応力腐食割れ(SCC)感受性が著しく増大する。

2. WPS策定における技術的制限事項

WPSを作成する際は、希釈率を最小化し、かつ適切なフェライト量を確保する設計が求められる。

① 溶接材料(溶加材)の選定

通常、炭素鋼とオーステナイト系ステンレスの接合には、高合金系の溶加材を使用する。

  • 推奨材料: JIS Z 3321 Y309L / Y309LSi
  • 理由: 炭素鋼側の希釈を考慮し、あらかじめCr・Ni成分を高めた「309系」を用いることで、希釈後もオーステナイト+フェライトの二相組織を維持し、耐食性と割れ感受性を抑制する。
  • 制限事項: 308系(SS同士の溶接用)は使用禁止とする。希釈により組織がマルテンサイト化し、溶接割れのリスクが極めて高いためである。

② ルートパスの施工条件(希釈制御の要諦)

希釈率は溶込み深さに直結する。以下のパラメータ管理が必須となる。

  • 入熱量(Heat Input)の制限: 過大な入熱は母材の溶融量を増大させる。低電流・高速度の「細いビード」を意識する。
  • 溶接姿勢とアーク長: 炭素鋼側にアークを向けすぎない「ステンレス側への偏心」を指示書に明記する。炭素鋼側の溶融量を意図的に減らすテクニックである。
  • 開先形状: U形よりもV形の方が溶込み制御が容易な場合が多いが、ルートギャップ管理は厳格に行う(ルートギャップが広いと希釈率が不安定化する)。

3. 実務における品質保証と評価(PQR)

JIS Z 3411(ISO 15614-1)に基づく確認

異材溶接は、PQRにおいて「異なる材料グループ間の溶接」として認定範囲(Range of Qualification)を確認する必要がある。

  • 引張試験: 異材溶接では強度の低い方の母材(通常は炭素鋼)で破断することを確認する。
  • 曲げ試験: 溶接金属の延性を評価する。希釈によるマルテンサイト生成がある場合、曲げ試験で割れが発生する。
  • マクロ組織試験: 断面のマクロエッチングを行い、溶込み形状および希釈状況を視覚的に確認する。
  • 硬さ試験(ビッカース硬さ):
  • 許容基準: 溶接金属およびHAZにおいて、一般的にHV350以下(環境によりHV250以下)を目標とする。これを超える場合は、溶接条件(入熱)の見直しまたは予熱・パス間温度管理を再設定する。

4. 現場でのトラブル対策:チェックリスト

現場での施工管理において、以下の項目が遵守されているかを確認する。

| 項目 | 管理指針 | 理由 |
| :— | :— | :— |
| 開先清浄 | 油分・錆・湿気の完全除去 | 水素誘起割れおよび溶接欠陥の防止 |
| 予熱管理 | 炭素鋼側の厚みに応じて設定 | 急冷による硬化防止(※ただし過予熱は希釈を助長するため注意) |
| パス間温度 | 150℃以下を厳守 | 熱履歴による鋭敏化および組織脆化の抑制 |
| ルートパスのパス数 | 可能な限り多層盛り | 第1層目の希釈を後続の層で希釈(再溶融)させないための工夫 |

5. 冶金学的な裏付け:シェフラーの状態図の活用

WPSを作成する際、溶接エンジニアはシェフラーの組織図(Schaeffler Diagram)を必ず参照すること。

1. クロム当量・ニッケル当量の算出: 母材と溶加材の化学成分から、希釈率(仮に20〜30%を想定)を乗じ、溶着金属の組成をプロットする。
2. フェライト量(FN)の予測: 組織図上で「オーステナイト+フェライト」の領域(通常フェライト量5〜15%)に入ることを確認する。
3. 判定: この領域から外れる場合、溶加材の変更(より高ニッケルなものへ)または希釈率を抑える溶接条件への変更を即座に行う。

異材溶接における品質は、施工時の「希釈の物理的制御」と「溶着金属の化学的設計」のバランスで決定される。規格(ISO/ASME/JIS)はあくまで最低基準であり、実務ではこれら冶金学的な裏付けを基にした、余裕を持った工程設計こそが、経年劣化を防ぐ唯一の手段である。

タイトルとURLをコピーしました