EN 1090-2における溶接実行クラス(EXC)選定の判断基準と実務への影響

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EN 1090-2における溶接実行クラス(EXC)選定の判断基準と実務への影響

欧州向け(CEマーキング対象)の鋼構造物およびアルミニウム構造物を製造・施工する際、EN 1090-2(鋼構造物の施工)およびEN 1090-3(アルミニウム構造物の施工)の遵守は法的要件である。その核となるのが溶接実行クラス(Execution Class: EXC)の選定である。

EXCの選定誤りは、過剰品質によるコスト高を招くか、あるいは安全性不足による認証不適合(CEマーク取得不能)を引き起こす。本稿では、EN 1090-2に基づくEXCの定義、選定マトリクス、日本のJIS/国土交通大臣認定制度との比較、および実務における具体的な品質管理要件への影響を網羅的に解説する。

1. 基礎知識:EN 1090-2と実行クラス(EXC)の全体像

1.1 EN 1090-2の体系と位置づけ

EN 1090は、欧州の建設製品規則(CPR: Construction Products Regulation EU No 305/2011)に基づき、構造用鋼材およびアルミニウム部材の製造・施工に関する要求事項を規定した規格である。

  • Part 1: 構造部材の適合性評価のための要件(CEマーキングの前提条件)
  • Part 2: 鋼構造物の技術的要件(Technical requirements for steel structures)
  • Part 3: アルミニウム構造物の技術的要件

EN 1090-2は、材料の調達、切断、成形、溶接、機械的接合、表面防食に至るまで、製造工程全体の品質管理を網羅している。

1.2 4つの実行クラス(EXC1 〜 EXC4)の定義

実行クラス(Execution Class: EXC)は、構造物が崩壊した際の人命、経済、環境へのリスクの大きさと、構造物の複雑性に応じてEXC1からEXC4までの4段階に分類される。

| 実行クラス | リスクレベル | 適用例(一般的な目安) |
| :— | :— | :— |
| EXC1 | 低リスク | 農業用建物、小規模な非居住用建築物 |
| EXC2 | 中リスク | 一般的な商業ビル、住宅、通常の土木構造物 |
| EXC3 | 高リスク | 大規模スタジアム、高層ビル、疲労荷重を受ける橋梁 |
| EXC4 | 極めて高いリスク | 原子力関連施設、大スパン吊り橋、特殊圧力容器 |

2. EXC選定の判断基準:マトリクスと決定メカニズム

EXCの選定は、設計者(Structural Designer)が以下の3つの要素を組み合わせて決定する(EN 1090-2 Annex Bに規定)。

1. Consequence Class (CC: 結果クラス)

  • CC1: 軽微な結果(人的被害なし、経済的損失小)
  • CC2: 中程度の重大な結果(人的被害わずか、経済的損失大)
  • CC3: 極めて重大な結果(多数の人的被害、甚大な経済・環境損失)

2. Service Category (SC: 使用カテゴリ)

  • SC1: 静的荷重(Static)、準静的荷重、または低サイクル疲労。非合金鋼(S355以下)が主。
  • SC2: 動的荷重(Dynamic)、高サイクル疲労(例:クレーンランウェイ、橋梁)、または高強度鋼(S460以上)。

3. Production Category (PC: 製造カテゴリ)

  • PC1: 非溶接構造、またはEXC1の溶接構造、あるいはS355以下のボルト接合メイン。
  • PC2: 溶接作業を伴う構造物、または熱間加工を伴うもの、あるいは高強度鋼の溶接。

結合マトリクス(EN 1990 / EN 1090-2 Annex B準拠)

| 結果クラス (CC) | 使用カテゴリ (SC1) | 使用カテゴリ (SC2) |
| :— | :— | :— |
| CC1 | EXC1 (PC1/PC2) | EXC2 |
| CC2 | EXC2 (PC1/PC2) | EXC3 |
| CC3 | EXC3 (PC1) / EXC4 (PC2) | EXC4 |

*実務上の注意*: 欧州市場向けプロジェクトでは、発注者仕様書(Project Specification)または国内附属書(National Annex)において、デフォルトのEXCが指定されるケースが多い。特に指定がない場合、一般的な建築物は EXC2 がスタンダードとなる。

3. 実務への影響:EXCレベルごとの技術・品質管理要件の差異

EXCのグレードが上がるにつれて、溶接施工における管理コストと技術的ハードルは非線形に跳ね上がる。以下に主要な項目ごとの差異を示す。

3.1 溶接施工法確認試験(WPS / WPQR)

溶接構造の信頼性を担保する根幹である。ISO 15614-1に基づくWPQR(Weld Procedure Qualification Record)の要求が厳格化する。

  • EXC1: 標準的なWPS(製造者の経験に基づくもの、ISO 15613やISO 15612など)の適用が認められる場合がある。
  • EXC2: 原則としてISO 15614-1に基づくWPQRが必須。
  • EXC3 & EXC4: すべての溶接プロセスにおいて厳格なWPQRが必須。母材の厚さ範囲、入熱量(Heat Input)の制限、母材の炭素当量(CEV)に応じた予熱温度の厳密な管理が求められる。

3.2 溶接技術者の資格(Welder Qualification)

溶接作業者の技量認定規格である ISO 9606-1(鋼)または ISO 14732(機械化・自動溶接オペレータ)への適合が義務付けられる。

  • EXC1: 製造者による独自の技量確認でも可とされる場合がある。
  • EXC2以上: 第三者機関(TÜVやSGSなど)またはNotified Body(NB)によって立ち会われたISO 9606-1に準拠した有効な資格証明書が必須となる。資格の有効期限(通常2年ごとの更新、および半年ごとの継続証明)の管理も監査対象となる。

3.3 溶接調整者(Welding Coordinator)の要件

ISO 14731に基づき、製造工場には適切な知識と経験を持つ「溶接調整者」の配置が義務付けられる。これがISO 3834(溶接品質管理体系)の認証要件と直結する。

  • EXC1: 基本的な技術知識(Basic technical knowledge / ISO 14731のGroup C相当)。
  • EXC2: 特定の技術知識(Specific technical knowledge / 同 Group B相当、IWE/IWT/IWS等の保有者が望ましい)。
  • EXC3 & EXC4: 包括的な技術知識(Comprehensive technical knowledge / IWE(国際溶接エンジニア)またはIWT(国際溶接テクノロジスト)の常駐が実質必須)。

3.4 非破壊検査(NDT)の頻度と要求レベル

EN 1090-2では、ISO 17637(目視検査)およびISO 5817(不完全部等級:B、C、D)に基づき、検査レベルが規定される。

| 検査項目 | EXC1 | EXC2 | EXC3 | EXC4 |
| :— | :— | :— | :— | :— |
| 目視検査 (VT) | 100% | 100% | 100% | 100% |
| 表面探傷 (MT/PT) | 要請による | 継ぎ手の5%〜10% | 継ぎ手の20%以上 | 100% |
| 超音波探傷 (UT) / 放射線 (RT) | なし | バット溶継手の5%〜10% | バット溶継手の20%〜50% | 100% |
| ISO 5817の許容レベル | Level D | Level C | Level B | Level B+追加要求 |

*冶金学的影響*: EXC3以上で要求される ISO 5817 Level B は、アンダカット、オーバーラップ、ブローホールなどの許容値が極めて厳しく(ほぼゼロ欠陥)、溶接条件(アーク電圧、電流、溶接速度)の精密な制御と、スパッタの発生抑制、トーチ角の最適化が現場作業員に要求される。

4. 日本の規格体系(JIS / 国土交通大臣認定)とのマッピング

日本国内の建築・土木構造物は、建築基準法に基づく国土交通大臣認定(Hグレード、Mグレード、Rグレード等)や、JIS Z 8101 / JIS B 8265等で管理されている。EN 1090-2のEXCと日本規格の対比は以下の通り。

4.1 建築鉄骨(国土交通大臣認定 H/M/R/Sグレード)との比較

日本の建築鉄骨ファブの最高峰であるHグレードは、EN 1090-2のEXC3にほぼ相当する。

  • 日本・Hグレード ≒ EN 1090-2 EXC3
  • 理由:超音波探傷検査(UT)の全数実施(または厳格な抽出)、溶接管理技術者(特別級・1級)の常駐、工場認定制度の厳格さ、WPS/PQRの徹底という点で高い共通性を持つ。
  • 日本・Mグレード ≒ EN 1090-2 EXC2
  • 理由:一般的なビル建築。部分的なNDT、JIS溶接技能者評価試験(SA、F等)の保有者が施工。
  • 日本・Rグレード・建築基準法一般 ≒ EN 1090-2 EXC1

4.2 土木鋼構造物(道路橋示方書・JIS 5083等)との比較

橋梁などの動的荷重(疲労)を受ける構造物は、必然的に EXC3 または EXC4 が選定される。日本の道路橋示方書に基づく溶接管理は、欧州のSC2(動的荷重)+ CC2/CC3の概念と合致しており、非破壊検査(UT/MT)の厳格さもほぼ同等レベルである。

5. 現場での実践・トラブル対策:EN 1090-2適合における実務上の勘所

欧州向けプロジェクトを日本国内の工場で製作・施工する場合や、海外製部材を輸入・施工する際に直面する典型的なトラブルと解決策を提示する。

5.1 トラブル1:溶接材料の管理と水素対策(Low Hydrogen Practice)

EXC2以上、特に高強度鋼(S355J2やS460Nなど)を扱う場合、低温割れ(Cold Cracking / 遅れ破壊)を防ぐため、拡散性水素量の管理が厳しく監査される。

  • 現象: 現場でのアーク溶接時に、被覆アーク溶接棒やフラッグワイヤの吸湿による水素混入で、溶接熱影響部(HAZ)に微細割れが発生。
  • 対策 (EN 1011-2準拠):
  • 低水素系溶接材料(AWS A5.5 E7016/E7018など)を使用し、開封後の保持温度・時間(例: 300〜350℃で2時間以上)を徹底管理。
  • 母材の炭素当量(CEV)に基づく予熱温度(Preheat Temperature)の計算と厳守。

$$CEV = C + \frac{Mn}{6} + \frac{Cr+Mo+V}{5} + \frac{Ni+Cu}{15}$$

  • パス間温度(Interpass temperature)の上限管理(通常250℃以下に抑える)。

5.2 トラブル2:ISO 3834認証とトレーサビリティの欠如

EN 1090-2の適合には、製造者が ISO 3834(溶接品質要求事項:パート2 Comprehensive quality requirementsが一般的) の認証を取得していることが前提となる。

  • 現象: 「JISの工場認定を持っているから大丈夫」という思い込みにより、材料証明書(MTC: Material Test Certificate / EN 10204 3.1証明書)と現物の刻印・マーキングのトレーサビリティが監査で不適合となるケース。
  • 対策:
  • 鋼材受入時から、ミルシートのheat numberと鋼材表面の打刻・マーキングを100%突合せるシステムを構築する。
  • 溶接施工時に、どの溶接士(Welder ID)が、どのWPSを使い、どの継ぎ手(Joint ID)を溶接したかを記録する溶接管理台帳(Welding Log)のデジタル化・厳格運用。

5.3 トラブル3:寸法公差(Geometric Tolerances)の厳しさ

EN 1090-2では、構造物の幾何学的公差について「Class A」と「Class B」の2段階(一部例外でClass C)が規定されており、特にEXC3/EXC4では「Class B(より厳格)」が適用される。

  • 対策:
  • 溶接歪み(アークの収縮応力による角変形や曲がり)を見込んだ逆歪み施工(Pre-setting)をWPSに明記。
  • 溶接順序の最適化(対称溶接、バックステップ溶接)による熱歪みの最小化。

6. まとめ

EN 1090-2における溶接実行クラス(EXC)の選定は、単なる事務的な書類手続きではなく、構造物の安全性と製造プロセス全体の品質保証レベルを定義する極めて重要なエンジニアリング判断である。

  • 設計段階では、結果クラス(CC)と使用カテゴリ(SC)に基づき適切なEXCを見極める。
  • 製造・施工段階では、選択されたEXC(特にEXC2〜EXC4)に応じて、ISO 3834認証、WPQRの網羅、ISO 9606-1に基づく溶接士資格、厳格なNDT(ISO 5817 Level B/C)を確実に実行する。
  • 日本国内のHグレード等の高品質な施工実績をベースにしつつ、欧州規格特有のトレーサビリティ(EN 10204 3.1 MTC)や溶接管理体制(ISO 14731)のギャップを埋めることが、海外プロジェクト成功の鍵となる。
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