溶接ロボットの『クレータ処理』設定とピット発生防止の完全技術解説
溶接の終端部で発生する「クレータ(クレーター)」およびその内部に生じる「ピット(収縮孔・ブローホール)」。
自動化・省人化の要である溶接ロボットにおいて、このクレータ処理のパラメータ設定不良は、構造物の強度低下や漏れ不良に直結する最大の懸念事項の一つである。
本記事では、クレータ部でピットが発生する冶金学的メカニズムから、ロボットコントローラーにおける具体的なタイマ・電流設定のノウハウ、さらにJIS規格が求める品質基準まで、現場の最前線で即座に応用できる実務知見を網羅的に解説する。
1. 基礎知識:クレータ部でピットが発生するメカニズム
クレータとは何か
アーク溶接の終端において、アークを急激に遮断すると、アーク力(推力)が消失し、溶融池が重力と表面張力によって引き戻される。その結果、ビード末端にすり鉢状の凹み(クレータ)が形成される。この部分は周囲の母材よりも金属量が不足し、凝固収縮の影響を最も強く受ける弱点部となる。
ピット(収縮孔・ブローホール)発生の冶金学的プロセス
クレータ部で発生する欠陥の多くは、単なる気泡(ブローホール)ではなく、金属の凝固収縮挙動に起因する収縮孔(クレータピット / クレータ亀裂の初期形態)である。
1. 指向性凝固の発生:
クレータ周辺の冷えた母材に向かって、溶融池の外周から中心部へ向けて凝固が進行する(指向性凝固)。
2. 最後の未凝固部(ホットスポット)の取り残し:
溶融池の最終凝固位置がクレータの中心部に集中する。
3. 体積収縮と溶湯不足:
液体から固体へ相変態する際、一般的な鋼材では約3〜7%の体積収縮が生じる。周囲がすでに固化しているため、収縮分の溶湯を供給できず、中心部に引け巣(空洞)や微小なピットが形成される。
4. ガスとの複合要因:
高温の溶融金属に溶解していた水素や一酸化炭素(CO)などのガスが、凝固時の溶解度低下によって放出しようとするが、急速な凝固と収縮が阻害要因となり、ガス穴(ブローホール)と収縮孔が複合したピットとして固定化される。
2. ロボット制御におけるクレータ処理パラメータの基本構造
近年のCO2/MAG溶接・TIG溶接用ロボットコントローラーには、アーク切断時の欠陥を防ぐための「クレータ機能(Crater Fill)」が標準装備されている。
一般的なパルス波形制御(CO2/MAGの場合)のシーケンスは以下の通りである。
[本溶接条件] ──(アークOFF信号)──> [クレータ条件] ──(クレータタイマ終了)──> [アーク消滅・ガス後流量]
├── クレータ電流(低下)
└── クレータ電圧(調整)
主要パラメータの定義
- クレータ電流(フィード速度):本溶接電流に対し、通常 30%〜60%程度 にまで出力を下げる。熱入力を絞り、溶融池を縮小させて徐々に凝固させるための設定。
- クレータ電圧(アーク長):電流低下に伴い、ワイヤ送給速度が落ちるため、アーク長が短くなりすぎてワイヤが母材にショート(スティック)するのを防ぐため、電圧も連動して適正値に調整する。
- クレータタイマ(時間):低電流状態を維持する時間。一般的に 0.3秒〜1.5秒 の間で設定し、溶融池を上からなだらかに埋めるように金属を供給する。
- バックアップ/スローダウン(アーク切れ際の設定):アークを完全に消す直前に、逆転動作(バーンバック)や微小電流を流してクレータ表面を完全に平滑化するオプション機能。
3. 現場の実践・トラブル対策:ピットを完全撲滅するパラメータ設定とノウハウ
現場で直面する「クレータピット」の多くは、ロボットのティーチングデータにおける「電流の下げすぎ」または「時間の短縮しすぎ」、あるいは「ガスシールドの不完全」に起因する。
トラブルシューティング:現象別の原因と対策
# パターンA:クレータ中心部に深い穴(収縮孔ピット)が開く
- 原因:クレータ電流が低すぎる、またはクレータタイマが短すぎる。アークが急に消えるため、溶湯が逃げ場を失って中心が凹み、引け巣が表面に露出している。
- 対策:
- クレータ電流を本溶接比 +10% 増加させる(例:40% → 50%)。
- クレータタイマを 0.2秒〜0.5秒 延長し、金属の供給量を増やす。
- ウィービング動作の併用:クレータ処理中にロボット先端に微小な円弧または横振れ(ウィービング)をプログラムし、溶融池の中心を均すように熱を分散させる。
# パターンB:表面に無数の小さなピンホール(ブローホール)が散在する
- 原因:クレータ処理中、アークが弱まったことでシールドガス(Ar+CO2混合ガスやCO2)の巻き込みや大気の混入が発生している。また、ベースメタルの表面汚染(油分・水分)がクレータ部に凝縮された。
- 対策:
- プレフロー/ポストフローの確認:シールドガスのポストフロー(アーク消滅後のガス供給時間)を 2.0秒〜5.0秒 に延長し、完全に凝固するまで高温部を保護する。
- トーチ角度の最適化:クレータ終端部でロボットトーチの進行角度が急変していないか確認する。終端でトーチが立ちすぎると、エジェクター効果で空気を巻き込む。前進角 5°〜15° を維持するティーチングに修正する。
【実務データ】鋼板(SM490A / 板厚9mm)における推奨設定例(MAG溶接の事例)
| パラメータ項目 | 本溶接条件 | クレータ処理条件 |
| :--- | :--- | :--- |
| 溶接電流 | 220 A | 90 A (約41%) |
| 溶接電圧 | 24.5 V | 18.5 V |
| ワイヤ送給速度 | 8.5 m/min | 3.2 m/min |
| 溶接速度 | 45 cm/min | 30 cm/min (※必要に応じ減速) |
| クレータタイマ | - | 0.8 sec |
| シールドガス | Ar 80% + CO2 20%(20 L/min) | 同左(ポストフロー 3.0 sec) |
4. 専門的知見:JIS規格および冶金学的観点からのアプローチ
JIS Z 3104(鋼溶接部の放射線透過試験方法)および JIS Z 3021 / JIS Z 3233 における許容基準
構造物の品質を担保する上で、クレータ部の欠陥は厳しく規制される。
- JIS Z 3043(アーク溶接部の外観視覚検査基準)等において、クレータ部に発生したひび割れ(クレータ割れ)は「有害な欠陥」であり、一切の存在が許されない(即座に除去・補修が必要)。
- ピット(ブローホール・収縮孔)に関しても、その大きさや個数が規格値(例:母材厚さやビード長に対する許容限度)を超えるものは不合格となる。特に動的荷重を受ける橋梁、クレータ、産業機械のフレームでは、応力集中源となるクレータピットの存在は疲労強度の著しい低下(最大で30〜50%の強度低下)を招く。
冶金学的考察:なぜクレータ割れとピットは同時発生しやすいのか
クレータ部は、溶接金属のなかで「最も不純物が濃縮されやすい場所」である。
溶融池が移動する際、硫黄(S)やリン(P)、低融点化合物は未凝固の溶融液に押し出され、最終凝固点であるクレータ中心部に集まる。
これにより以下の現象が連鎖する。
1. 偏析による結晶粒界の弱体化。
2. 凝固収縮応力による熱間割れ(クレータ割れ)の発生。
3. その割れ隙間や収縮応力場を起点としたマイクロピットの形成。
これを防止するためには、ロボットのクレータ処理において「単に電流を下げるだけでなく、アークを徐々に絞り込みながら、十分な溶着金属を補給して中心部の引け巣を押し出す」という熱・質量バランスの制御が不可欠となる。
5. ロボットティーチングにおける実践チェックリスト
現場でロボットプログラムを立ち上げる際、以下の手順を必ず踏むことで、クレータ不良による手戻りをゼロにすることができる。
1. ワーク端部・停止位置の確認:
ビードの終端でロボットが完全に停止した状態でクレータ処理に入っているか(移動しながらのクレータ処理は溶融池が伸びてピットの原因になる)。
2. ワイヤ先端のコンディション確認:
アーク終了時にワイヤ先端に大きな溶滴(ボール)が残っていると、次のアークスタート時に不具合を及ぼすだけでなく、クレータ終了時の形状を乱す。ロボットコントローラーの「バーンバック(逆転引き戻し)時間」を最適化し、ワイヤ先端をきれいな形状に保つ。
3. テストピースによるマクロ断面検査の実施:
本番稼働前に同一材質のテストピースで溶接を行い、クレータ部を切断・研磨してマクロ組織を確認する。中心部に収縮孔や微小ピット、内部割れがないことを実証してから量産へ移行する。