高温割れ オーステナイト系ステンレス鋼SUS304

オーステナイト系ステンレス鋼SUS304

  • 高温割れ(凝固割れ)に影響する材料学的因子は、
    ⇒溶接金属の組成
    ⇒凝固形態
    ⇒溶接材料と母材の化学成分
    ⇒希釈率
    ⇒(デルタ)フェライト
  • オーステナイト系ステンレス鋼SUS304の高温割れの原因は、P、S、Siなどの粒界への偏析であり、その防止策の1つは、数%のδ(デルタ)フェライトの生成である
  • 上記防止策の補足:オーステナイト組織中に数%の(デルタ)フェライトが存在すると、割れを軽減又は防止できるので、溶接金属中に(デルタ)フェライトを5%以上含むように溶接金属の組成を調整したものを選択する。溶接金属組成はシェフラ組織図を用いてCr当量とNi当量で推定される
  • 防止策の1つとして、P、S保有量の低い溶接材料を選択するということがある。

SUS304の高温割れの特徴と発生メカニズム、および対策

SUS304は、18Cr-8Niの代表的なオーステナイト系ステンレス鋼であり、耐食性や加工性に優れ、構造材や食品機械、建築部材など幅広い分野で利用されています。しかし、溶接性においては注意すべき点が多く、特に「高温割れ(ホットクラック)」に対して高い感受性を持つことが知られています。


■ 高温割れとは

高温割れとは、溶接金属が凝固中あるいは凝固直後の高温状態で発生する割れで、凝固割れ(solidification cracking)とも呼ばれます。溶接直後の金属は強度が低く、かつ応力が集中しやすいため、この段階での組織状態や化学成分によって割れが発生しやすくなります。


■ SUS304における高温割れの特徴

SUS304は溶接時にオーステナイト(γ相)のみで凝固するという特徴があります。これは「完全オーステナイト凝固型」と呼ばれます。この凝固形態では、凝固末期に不純物元素(S, P, Bi, Pbなどの低融点元素)が粒界に偏析しやすく、低融点共晶相を形成するため、凝固末期の粒界が極めて脆くなります。

この状態で、母材の拘束や溶接時の収縮による引張応力が粒界に集中すると、粒界が破断し、凝固割れが発生します。また、SUS304は溶接中にδ-フェライトがほとんど生成されないため、不純物を吸収する効果がなく、割れ感受性がさらに高まります。


■ 主な発生条件

  1. 溶接金属が完全オーステナイト組織の場合
     δフェライトがほぼ存在しないと、不純物を隔離できず粒界に蓄積する。
  2. 過大な拘束力がかかっている場合
     厚板や継手構造で溶接中の収縮が拘束されると、粒界に大きな引張応力が加わる。
  3. 熱入力が高すぎるか低すぎる場合
     高すぎると偏析が進み、低すぎると急冷で応力集中が増す。
  4. 不純物元素(S、Pなど)の含有量が多い場合
     粒界偏析が助長され、低融点共晶相が形成されやすくなる。

■ 防止策

SUS304の高温割れを防ぐには、以下のような対策が効果的です。

  1. 適度なδ-フェライトを含む溶接金属の設計
     フェライトは不純物元素を吸収し、粒界偏析を抑制します。一般にフェライトナンバー(FN)で3~8程度が割れ感受性の低い領域とされます。SUS308Lなどのフェライトを適度に含む溶加材の使用が有効です。
  2. 低不純物材料の使用
     P、S含有量を極力抑えた母材や溶加材を使用することが望ましい。
  3. 熱入力の適正化
     過大・過小な熱入力は避け、適正な電流・電圧・速度で安定したアークを維持する。
  4. 拘束の緩和
     治具や構造の工夫により、初層や端部の拘束力をできるだけ低減する。また、割れが発生しやすい継手端部にはクレータ盛りやアークバックなどの処理も有効。
  5. ビード形状の最適化
     開先の形状やルート間隔を適切に設計し、浅く広いビードで応力集中を緩和する。

■ まとめ

SUS304はオーステナイト系ステンレス鋼として優れた材料である一方で、溶接時の高温割れに対しては高感受性を持ちます。その原因は、完全オーステナイト凝固による不純物の粒界偏析と、フェライトの欠如にあります。割れの防止には、フェライトの導入、低不純物材の使用、拘束力の低減、溶接条件の最適化といった複合的な対策が必要です。

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