アルミニウム合金
- アルミニウム合金のアーク溶接では高温割れを発生しやすいが、その対策として母材にCrを添加して結晶粒を微細化する方法が有効である
アルミニウム合金における高温割れ(ホットクラック)
アルミニウム合金は軽量で加工性に優れ、輸送機器、建築、電子機器など幅広い分野で使用されていますが、溶接性に関しては課題があり、特に高温割れ(ホットクラック)に対する感受性が高いことで知られています。高温割れは、溶融金属の凝固中または凝固直後の高温脆弱な状態で発生する亀裂であり、アルミニウム合金溶接の品質を大きく左右する重要な溶接欠陥の一つです。
■ 高温割れの発生メカニズム
アルミニウム合金の溶接時、溶接金属は急速に溶融・凝固します。この凝固過程において、合金中の一部成分(特にSi、Cu、Mgなど)は凝固末期に低融点の共晶を形成し、粒界や樹枝間に偏析します。凝固末期の金属はまだ完全な強度を持たず、この状態で溶接収縮などの引張応力が作用すると、粒界に亀裂が生じて高温割れが発生します。
また、アルミニウムは熱伝導率が非常に高く、固液共存領域の温度幅が広いため、他の金属材料に比べて凝固割れが起こりやすい特徴があります。
■ 高温割れが発生しやすい条件
- 強い合金元素(Cu、Mg、Siなど)の添加
6000系(Al-Mg-Si)、2000系(Al-Cu)、7000系(Al-Zn-Mg)などの高強度アルミ合金は、凝固末期に広範囲の共晶を形成し、割れ感受性が高い。 - 拘束力が大きい溶接構造
継手構造や固定方法により、溶接時の収縮応力が拘束されると、割れの起点となりやすい。 - 不適切な溶接条件
過大な熱入力や不安定なアークは、凝固速度や偏析状態に影響し、割れを助長する。 - 不適合な溶加材の使用
母材との合金組成が不適切な場合、共晶成分が増加し割れやすくなる。
■ 高温割れの防止対策
アルミニウム合金における高温割れを防止するには、材料・溶接方法・構造的対策を組み合わせて対応する必要があります。
- 適正な溶加材の選定
母材と溶加材の合金組成の違いを利用して、溶加材中の低融点共晶生成を抑制する。例えば、6061材には4045や5356などの適合溶加材を使用することで、割れ感受性を下げられる。 - 拘束の緩和
治具の工夫や仮付け方法により、溶接部にかかる拘束を最小限に抑える。特に初層や継手端部においては、応力集中を避ける設計が必要。 - 適正な熱入力管理
アルミニウムは急速な熱伝導と反射率の高さから、熱入力制御が難しい。中庸な電流・電圧設定と、一定速度のトーチ操作が求められる。 - 開先形状や溶接順序の工夫
開先の角度やルート間隔を適切に設定し、溶接金属が均一に凝固するように設計する。多層盛りの場合も、各パスごとに適切なビード形状と冷却時間を確保することが有効。 - 予熱・後熱の活用
特に厚板や拘束の強い構造では、予熱(100~150℃)により温度勾配を緩和し、割れを防止できる場合がある。
■ まとめ
アルミニウム合金の高温割れは、凝固末期の粒界における低融点共晶の偏析と、それに加わる引張応力が原因で発生します。特に高強度アルミ合金ほど感受性が高いため、適切な溶加材の選定、熱入力の最適化、拘束の緩和、構造設計の工夫といった多方面からの対策が必要です。これにより、溶接部の健全性と長期信頼性が確保されます。