JIS Z 3104 / ISO 17636 放射線透過試験(RT)の欠陥分類と判定基準の完全解説
1. 基礎知識:放射線透過試験(RT)の概要とメカニズム
放射線透過試験(Radiographic Testing: RT)は、溶接部の内部欠陥を非破壊で検出するための最も信頼性の高い検査法の一つである。X線またはガンマ線($\mathrm{Ir-192}$や$\mathrm{Co-60}$など)を試験体に照射し、透過した放射線の強弱をフィルムまたはデジタル検出器(CR/DR)に感光・記録することで、内部の密度変化を映像化する。
溶接継手におけるRTの物理的メカニズムと適用限界
RTは、欠陥部が存在することによる「母材の厚み(質量)の減少」を利用している。すなわち、健全部と欠陥部(空洞や介在物)における放射線の吸収係数の差を、透過光のコントラストとして捉える。
- 検出感度と指向性: 放射線の入射方向に対し、平行な方向に開口している平面状の欠陥(例:縦割れ、ルート際の完全溶込み不足)は、厚みの減少分が極めて小さいため、RTでは検出が非常に困難である。一方、球状のブローホールや体積を持つスラッグ巻き込みに対しては高い検出能力を発揮する。
- 適用限界: 母材厚さが薄い場合(一般に鋼で数ミリ以下)や、形状が複雑で幾何不鮮明さが大きくなる箇所では適用が制限される。また、安全管理上、放射線管理区域の設定が必須となるため、現場施工においては工程上の制約が大きい。
2. JIS Z 3104に基づく欠陥分類と合否判定基準(1種〜4種)
日本国内の溶接構造物(圧力容器、配管、橋梁など)において、鋼溶接部の放射線透過試験による欠陥の分類と等級づけは、長年にわたり JIS Z 3104(鋼溶接部の放射線透過試験方法及び透過写真の等級分類) に準拠して行われてきた。
2.1 欠陥のグループ分け(点状・線状の定義)
JIS Z 3104では、検出された欠陥をその形状と寸法により以下のグループに大別する。
1. A級欠陥(点状欠陥):
- ブローホール、独立した比較的小さな介在物など。
- 長さに対する幅の比が小さく(おおむね3未満)、丸みを持ったもの。
2. B級欠陥(線状欠陥):
- スラッグ巻き込み、個々の融解不良、あるいは連続したブローホールなど。
- 長さが幅に比べて大きいもの(長さが幅の3倍を超えるもの)。
3. C級欠陥(きずの分布):
- A級またはB級の欠陥が、一定の面積(単位長さまたは単位面積)の中に高密度で分散・集中している状態。
4. D級欠陥(割れ):
- 溶接金属や熱影響部(HAZ)に発生した微小な割れ、または明確な割れ。割れはいかなる等級であっても原則として不合格(許容されない)とされる。
2.2 透過写真の等級分類(1種〜4種)と判定マトリクス
JIS Z 3104では、撮影された透過写真に現れた欠陥の大きさ、個数、および総面積に基づき、母材の厚さに応じた比較表(母材厚さ別の許容限界表)を用いて、写真の等級を 1種、2種、3種、4種 に分類する。
| 等級 | 状態の定義 | 許容される欠陥の傾向 | 主な適用・評価 |
| :— | :— | :— | :— |
| 1種 | 極めて良好 | 欠陥が極めて少なく、微小な点状欠陥がごく少数認められる程度。 | 動的負荷や疲労を受ける極めて厳格な部位。 |
| 2種 | 良好 | 実用上支障のない軽微な欠陥が許容される。一般構造用として十分な品質。 | 高圧ガス容器、重要圧力容器、高応力部。 |
| 3種 | 普通 | やや多くの欠陥が許容されるが、強度の著しい低下を招かない範囲。 | 一般建築、一般機械構造物。 |
| 4種 | 不合格(または許容外) | 3種を超える欠陥が認められたもの。補修(ガウジング・再溶接)が必須。 | 構造上の安全性に懸念がある状態。 |
※実際の合否判定では、JIS Z 3104の附属書等に規定される「きずの大きさの区分(1〜4)」および「母材厚さごとの母集団内での許容個数・点数換算表」を用い、厳密なスコアリングが行われる。
3. ISO 17636 / ISO 10675 による国際規格の評価体系
グローバル化が進む現代のプラント建設や圧力容器製造では、国際規格である ISO 17636(溶接部の放射線透過試験) および合否判定基準である ISO 10675 の適用が主流となりつつある。
ISO規格とJIS Z 3104の思想的・実務的違い
- 試験方法(ISO 17636-1: X線及びガンマ線によるフィルムを用いた試験 / ISO 17636-2: デジタル検出器を用いた試験):
JIS Z 3104と同等の基本原理であるが、画質指標(IQI:Image Quality Indicator)の選定や幾何不鮮明さの許容値の算定において、より定量的な管理が求められる。
- 判定基準(ISO 10675-1: 鋼、ニッケル、チタン及びその合金の放射線透過試験の受入レベル):
JISのような「1種〜4種」という一律の等級ではなく、受入レベル(Acceptance Level)として以下の3段階が規定されている。
| ISO 10675-1 受入レベル | 概要・対応する品質概念 | 備考 |
| :— | :— | :— |
| レベル 1 (Level 1) | 高い完全性(High) | 疲労き裂や高い動的荷重を受ける厳しい条件に適用。JISの1種〜厳格な2種相当。 |
| レベル 2 (Level 2) | 中程度の完全性(Moderate) | 一般的な圧力容器や配管に適用。JISの2種〜3種相当。 |
| Level 3 (Level 3) | 低い完全性(Low) | 静的荷重を受ける構造物に適用。 |
国際規格における最大の相違点:割れと欠陥の定量評価
ISO規格においては、「割れ(Crack)、未溶込み(Lack of penetration)、および不完全なルート融解(Lack of fusion)」はいかなる受入レベルであっても一切許容されない(許容寸法 = 0)。
また、ブローホールやスラッグ等の体積欠陥についても、母材厚さに対する投影面積の割合や個別の最大寸法が厳密に数式化されており、JISの点数表的な運用よりも、CADやデジタル計測を用いた厳密な寸法評価が前提となる。
4. 現場での実践・トラブル対策:欠陥の冶金学的発生原因と対策
RTで検出される主な欠陥について、その発生メカニズム(冶金学的・溶接施工的要因)と、現場で直ちに講じるべき対策を詳述する。
4.1 ブローホール(球状・虫食い状)
- 発生メカニズム:
溶融金属中の溶解度限界を超えたガス(水素 $\mathrm{H_2}$、一酸化炭素 $\mathrm{CO}$、窒素 $\mathrm{N_2}$ 等)が、凝固の過程で大気中に抜け切れずに気泡として閉じ込められる現象。
- *シールド不良:* 開先部の水分、油分、錆、塗料、あるいはシールドガスの流量不足・風による巻き込み。
- *ワイヤ・母材の吸湿:* 被覆アーク溶接棒の乾燥不足(吸湿による水素混入)。
- 具体的な溶接条件の改善策:
- 半自動溶接(GMAW/FCAW)におけるシールドガス($\mathrm{Ar} + \mathrm{CO_2}$ や $\mathrm{Ar}$)の流量を適正化(通常 20〜25 L/min)。屋外施工時は防風スクリーンを確実に設置。
- 低水素系溶接棒は使用前に規定の条件で再乾燥(例:JIS Z 3801等に準じ、300〜350℃で1〜2時間)。
- 母材開先面およびその周辺(最低20mm幅)のグラインダー清掃、アセトン等による脱脂洗浄の徹底。
4.2 スラッグ巻き込み(線状・孤立状)
- 発生メカニズム:
被覆アーク溶接(SMAW)やサブマージアーク溶接(SAW)において、スラグの比重が溶融金属より軽いため浮上するはずが、急冷や過度な溶接速度、複雑な積層形状によって溶け込みの間に閉じ込められる。特に多層盛溶接の中間層でスラッグの除去不良がある場合に頻発。
- 具体的な溶接条件の改善策:
- 一層ごとのスラグ除去(チッピングハンマーおよびワイヤブラシ、必要に応じグラインダー)を徹底する。
- 前層のビード形状が急な凹凸やアンダーカット気味になっている場合、次層のスラグが噛み込みやすいため、電流・電圧およびウィービング幅を調整し、滑らかなビードプロファイル(平坦な形状)を形成する。
- 電流値の確保(入熱不足によるスラグと金属の分離不良を防ぐ)。
4.3 割れ(縦割れ、横割れ、クレータ割れ)
- 発生メカニズム:
溶接金属またはHAZにおいて、凝固時または冷却時の残留応力と組織変態(マルテンサイト変態等)の複合作用により発生する。
- *高温割れ:* 硫黄(S)やリン(P)の偏析、クレータ部の収縮応力。
- *低温割れ(遅れ割れ):* 拡散性水素の存在、硬化組織(高炭素当量・低合金鋼)、高い拘束応力。
- 具体的な溶接条件の改善策:
- 予熱およびパス間温度の厳格な管理(例:高張力鋼や厚板では予熱温度 100〜200℃以上 を確保し、冷却速度を緩慢にして残留応力と硬化組織を抑制)。
- 低水素系材料の徹底使用と、作業直前までの保温。
- クレータ処理(アーク切れ端でのクレータ割れを防ぐため、クレータ処理装置の活用やタイトなアーク戻し操作の実施)。
- 拘束度の高い継手では、適切な溶接シーエンス(後戻り法、段落し法など)を採用し、収縮応力を分散させる。
5. 高度な施工管理・品質保証の知見
非破壊試験(RT)の合否判定は、単に「不合格だから補修する」という受動的な対応に留めるべきではない。品質保証の観点から、施工管理エンジニアが実践すべき高度なアプローチを提示する。
5.1 欠陥のトレンド分析(統計的品質管理: SPC)
RTのフィルムやデジタル画像の判定結果(何種の欠陥が出たか、どの位置・どの溶接士に偏っているか)を、単発の合否で終わらせずデータベース化する。
- 特定の溶接士において「スラッグ巻き込み」が頻発している場合:ビード清掃手順やトーチアングル、アーク長の見直し。
- 特定の部材ロットにおいて「ブローホール」が多発している場合:母材の表面状態、開先加工時の切削油の残留、またはシールドガスの純度・配管からの大気混入(リーク)の疑いを即座に検証。
5.2 RTと他試験(UTなど)の補完的運用
前述の通り、RTは「平面状欠陥(割れや完全溶込み不足)」に対する検出感度が低いという物理的特性を持つ。
- 重要構造物(圧力容器の主要溶接部など)においては、JISやASMEコードに基づき、RTと超音波探傷試験(UT / TOFD / PAUT)の併用(複合非破壊試験)を指定する。
- RTで体積欠陥(ブローホール等)をマクロにスクリーニングし、UT(特にフェーズドアレイ超音波探傷:PAUT)で平面状欠陥の検出およびサイジングを高精度に行うことで、見逃しゼロの品質保証体制を構築する。
放射線透過試験(RT)の規格と判定基準を完全に理解することは、単に規格に適合した製品を作るだけでなく、溶接現象そのものを制御し、プラントや構造物の長期信頼性を担保するための根幹技術である。現場の施工管理において、これらの基準と冶金学的要因を直結させた対策を講じることが、プロフェッショナルな品質保証エンジニアに求められる要件である。