JIS Z 2320 (MT) と JIS Z 2343 (PT) の使い分けと表面欠陥検出

スポンサーリンク
スポンサーリンク

溶接部表面欠陥の非破壊試験:JIS Z 2320 (MT) と JIS Z 2343 (PT) の完全実務ガイド

溶接構造物の品質保証において、表面および直近表面の欠陥検出は、疲労強度や耐食性を確保する上で極めて重要な工程である。溶接部に発生する微細な割れ(高温割れ、低温割れ)、アンダカット、オーバーラップ、あるいはピットなどは、構造物の致命的な破壊の起点となる。

これらを非破壊で検出する手法として、磁粉探傷試験(MT: Magnetic Particle Testing, JIS Z 2320)と浸透探傷試験(PT: Penetrant Testing, JIS Z 2343)が広く用いられている。本稿では、両者の冶金学的メカニズム、適用範囲、検出能力、および規格に基づく実務上の使い分けについて、品質保証エンジニアの視点から網羅的に解説する。

1. 基礎知識:MTとPTの概要・メカニズム

1.1 磁粉探傷試験(MT:JIS Z 2320)のメカニズム

# 物理的原理

MTは、強磁性材料(鉄鋼材料など)を磁化した際に、表面またはごく浅い内部に欠陥が存在すると、磁力線が材料表面外部へ漏洩する現象(漏洩磁場)を利用する。この漏洩磁場に磁粉(鉄粉などの強磁性微粒子)を散布すると、磁極に引き寄せられるように磁粉が吸着し、欠陥の形状や位置を視覚的に表示する。

# 適用可能な材料

  • 原則: 強磁性体(炭素鋼、低合金鋼、マルテンサイト系・フェライト系ステンレス鋼など)
  • 適用外: オーステナイト系ステンレス鋼、アルミニウム合金、銅合金などの非磁性体

# 検出感度

開口していない表面直近(サブサーフェス)の欠陥(例:深さ数ミリまでのブローホールや内部割れ)の検出が可能である点に最大の特徴がある。ただし、開口幅が極めて狭い(ピンチオフした)割れであっても、漏洩磁場さえ生じれば検出感度は高い。

1.2 浸透探傷試験(PT:JIS Z 2343)のメカニズム

# 物理的原理

PTは、毛細管現象(Capillarity)を利用する。被検物の表面に開口した微小な割れやピンホールに対し、表面張力の小さい浸透液を塗布・浸透させる。一定の浸透時間(レジストタイム)を経た後、余分な浸透液を除去し、現像剤を塗布することで、毛細管現象によって欠陥内部に吸い上げられた浸透液が表面に滲み出し、指示模様を形成する。

# 適用可能な材料

  • 原則: 金属、非金属を問わず、表面に開口した欠陥を持つすべての固体材料(アルミニウム、オーステナイト系ステンレス鋼、チタン、セラミックスなど)
  • 適用外: 多孔質材料(コンクリートや焼結金属など、液を吸収してしまうもの)

# 検出感度

表面に完全に「開口」している欠陥のみ検出可能。表面が塗料やスパッタ、酸化スケールで覆われている場合、あるいは欠陥内部がゴミや油脂で閉塞している場合、浸透液が侵入できず検出不能(見逃し)となる。

2. 材料特性と適用可否の判定基準

実務においてMTとPTのどちらを選定するかは、第一に「母材および溶接金属の冶金学的性質(磁気特性)」、第二に「欠陥の形態(開口の有無と深さ)」によって決定される。

2.1 材質による適用のマトリクス

| 材料種別 | 代表例 | 組織・磁性 | MTの適用 | PTの適用 | 備考 |
| :— | :— | :— | :— | :— | :— |
| 軟鋼・一般構造用鋼 | SM490, SS400 | フェライト・パーライト(強磁性) | 最適 | 適用可 | 磁気特性良好。磁粉のコントラストが重要。 |
| 高張力鋼(調質鋼) | HT780, 80キロ鋼 | マルテンサイト / ベイナイト(強磁性) | 最適 | 適用可 | 焼入れ・焼き戻し材は磁気特性に注意が必要な場合あり。 |
| オーステナイト系ステンレス鋼 | SUS304, SUS316 | オーステナイト(非磁性) | 適用不可 | 最適 | 溶接時のδフェライト生成量によっては微弱な磁性を示すことがあるが基本は非適用。 |
| 二相ステンレス鋼 | SUS32707等 | フェライト + オーステナイト | 条件付き可 | 最適 | 磁性はあるが、組織の不均一性による疑似指示に注意。 |
| アルミニウム合金 | A5083, A6061 | 非磁性 | 適用不可 | 最適 | 溶接割れ(クレータ割れ等)の検出にPTが標準。 |

2.2 冶金学的要因が試験結果に与える影響

1. オーステナイト系ステンレス鋼溶接部の低温割れとPT:
オーステナイト系不銹鋼の溶接では、高温割れ(凝固割れ)や応力腐食割れ(SCC)が懸念される。これらは表面に開口することが多いためPTが原則となるが、溶接ビード表面の粗さが激しい場合、浸透液の拭き取り残しによる「疑似指示(False Indication)」が多発するため、前処理(グラインダー仕上げや酸洗い)の品質が合否を分ける。
2. 磁気偏吹(Magnetic Blow)とMT:
高電流を通電する電極法やC形ヨーク法によるMT施工時、溶接部の形状や残留磁気、あるいは異材継手(炭素鋼とステンレス鋼の溶接部など)の境界において磁束が歪む「磁気偏吹」が発生する。これにより、実際には欠陥がない箇所に磁粉が異常集積し、誤判定を招くことがある。

3. 現場での実践・トラブル対策と施工手順

3.1 表面処理の重要性と許容基準

両試験ともに、表面状態が検査信頼性に直結する。

  • 共通の前処理:

溶接スパッタ、スラグ、スケール、油分、塗料などは完全に除去しなければならない。ショットブラスト、ワイヤーブラシ(ステンレス鋼の場合はステンレス製ブラシを使用のこと)、またはグラインダーによる清掃を行う。

  • 表面粗さの限界:

PTの場合、粗さが粗すぎると(概ね $Rz > 25\,\mu\text{m}$ 超)、凹凸に浸透液が残留し、現像時に全面が赤く染まる(バックグラウンドの汚れ)原因となる。

3.2 検査パラメータの具体値

# MT施工時のパラメータ(電磁石法・プロッド法など)

  • 磁化電流:

交流(AC)磁化は表面欠陥の検出に優れ、直流(DC/HWDC)磁化は深部欠陥(サブサーフェス)の検出に適す。

  • *プロッド法(電流通電法)の電極間隔:* 一般に $75\text{mm} \sim 200\text{mm}$。
  • *電流値の目安:* プロッド法の場合、交流または半波整流電流で、電極間隔 1 インチ(25.4 mm)あたり 90 A 〜 120 A、あるいは厚さあたりの規定値を適用(例:JIS Z 2320-1 に準拠)。
  • 照度・紫外線強度:
  • カラー磁粉(白色光下): 検査面での照度 1000 lx 以上を確保。
  • 蛍光磁粉(ブラックライト使用): 紫外線照度は検査面で $10\,\text{W/m}^2$ ($1000\,\mu\text{W/cm}^2$) 以上、周囲の可視光線照度は 20 lx 以下。

# PT施工時のパラメータ(染色浸透・蛍光浸透)

  • 浸透時間(レジストタイム):

母材および欠陥の材質、温度により異なるが、一般的に $5^\circ\text{C} \sim 50^\circ\text{C}$ の環境下で 5分〜60分。

  • *例:* ステンレス鋼の微小割れの場合:浸透 15分以上。
  • 現像時間:

浸透時間の半分以上、通常は 10分〜30分。過剰な放置は指示がにじみ、欠陥のサイズを過大評価させるため注意する。

3.3 トラブルシューティング(現場で直面する課題)

  • 課題A:MTにおける「疑似指示(Pseudo Indication)」の判別
  • *原因:* 溶接のビード形状の急激な変化(アンダカットの影、ルートまわりの形状変化)、および磁性材料の硬さの不連続(熱影響部 HAZ と溶接金属の境界)による磁束漏洩。
  • *対策:* ヨークの配置を変更する、あるいは微小なグラインダー修正を行い、同一箇所を再検査して指示が再現するか確認する。
  • 課題B:PTにおける「開口部の閉塞(Smearing)」
  • *原因:* グラインダー仕上げやショットブラストを行った際、延性のある金属(アルミニウムや軟鋼)が塑性流動を起こし、微小な割れの開口部を蓋(覆い隠す)してしまう。これでは浸透液が入り込めない。
  • *対策:* エッチング処理(酸洗)または軽微なケミカルクリーニングを行い、塑性変形層を除去してからPTを実施する。

4. 専門的知見:JIS/ISO規格の要求事項と冶金学的背景

4.1 適用規格の体系

非破壊試験の実施および合否判定にあたっては、以下の規格群が厳密に適用される。

  • 磁粉探傷試験 (MT):
  • JIS Z 2320シリーズ(ISO 9934 相当):非破壊試験-磁粉探傷試験
  • JIS Z 2320-1: 通則
  • JIS Z 2320-2: 検出媒体
  • JIS Z 2320-3: 装置
  • JIS Z 3060 / WES 3008(溶接部に対する非破壊試験の等級分類)
  • 浸透探傷試験 (PT):
  • JIS Z 2343シリーズ(ISO 3452 相当):非破壊試験-浸透探傷試験
  • JIS Z 2343-1: 通則
  • JIS Z 2343-2: 浸透探傷剤の試験
  • JIS Z 2343-5: 50℃を超える温度での浸透探傷試験
  • JIS Z 2344 / JIS Z 3060 等に関連する受入基準が規定される。

4.2 冶金学的欠陥とMT/PTの検出限界

溶接構造物における破壊の多くは、溶接施工時に生じた微小欠陥や応力集中部を起点とする。

1. 高温割れ(Solidification Cracking / Liquation Cracking)

  • *発生メカニズム:* 凝固温度範囲の末期に、低融点共晶(硫黄やリンの化合物など)が粒界に残留し、収縮応力に耐え切れず結晶粒界が引き裂かれる現象。
  • *特性:* ほとんどの場合、表面に開口するか、あるいは極めて浅い直近表面に存在する。
  • *試験選択:* 炭素鋼であればMT、ステンレスやアルミであればPTのいずれでも高い検出率を誇る。ただし、幅が $1\,\mu\text{m}$ 未満の極めて微細なクレータ割れの場合、高感度蛍光浸透探傷(レベル 2 または 3)が不可欠となる。

2. 低温割れ(Cold Cracking / Delayed Cracking / 水素誘起割れ)

  • *発生メカニズム:* 溶接金属やHAZへの拡散性水素の侵入、マルテンサイト変態による硬化組織、および拘束応力が複合して発生する。溶接後、数時間から数日遅れて発生するため「遅れ割れ」とも呼ばれる。
  • *特性:* 粒内または粒界に沿って発生し、母材内部から表面に向かって進展する。
  • *試験選択:* 発生時期が溶接完了後数日経ってからであるため、非破壊検査のタイミング(通常、溶接後 48 時間以上経過してから実施することが多い)に注意が必要。サブサーフェス(表面直近)に潜む微細な割れを捉えるため、MT(特に直流磁化や湿式磁粉)が極めて有効である。

4.3 品質保証上の留意点(合否判定と記録)

溶接管理技術者として、単に「欠陥がある・なし」を判断するだけでなく、以下のトレーサビリティを確保しなければならない。

  • 指示模様の記録:

PTにおいては現像後の指示模様をスケッチ、あるいはデジタルカメラ等でスケールと共に撮影し、欠陥の長さ・配列(独立か連続か)を記録する。MTにおいては、粘着テープ(トランスペアレントテープ)による磁粉模様の転写(トランスクリップ)または写真撮影により記録を残す。

  • 合否判定基準の遵守:

WES規格(日本溶接協会規格)や ASME Boiler and Pressure Vessel Code Section V / VIII などの建設規格が定める許容限界(例:亀裂はくい込み深さ・長さに関わらず一切不合格、線状指示の長さの制限など)に照らし合わせ、的確な修復指示(ガウジングによる欠陥除去と再溶接)を行う。表面処理から検査、判定、補修に至るまでの全プロセスを品質記録として維持することが、最高峰の溶接施工管理体制の必須条件である。

タイトルとURLをコピーしました