JASS 6が要求する溶接部の超音波探傷検査(UT)基準の完全解説
建築鉄骨工事において、溶接部の品質確保は構造物の安全性に直結する極めて重要な要素である。日本建築学会が制定する『建築工事標準仕様書・同解説 6 鉄骨工事』(通称:JASS 6)は、日本の建築現場において「実質的な法律(技術基準)」として強烈な拘束力を持つ。
本稿では、JASS 6が規定する完全溶込み溶接部の超音波探傷検査(Ultrasonic Testing: UT)のサンプリング率、合否判定基準、実務上の運用、および規格の背景にある冶金学的・非破壊検査的メカニズムについて、溶接管理技術者の視点から徹底的に解説する。
1. 基礎知識:JASS 6におけるUT検査の位置づけとメカニズム
1.1 JASS 6と建築基準法・JISの関係
日本の建築鉄骨の品質基準は、建築基準法および関連する国土交通省告示(旧建設省告示)をベースとしているが、実務上の具体的な施工・検査基準はJASS 6に準拠することが多い。
JASS 6では、溶接部の内部欠陥(ブローホール、スラッグ巻き込み、割れ、融合不良など)を検出するための非破壊検査として、放射線透過試験(RT)または超音波探傷検査(UT)を指定している。しかし、近年の高層ビルや大スパンスチール構造物においては、安全性、作業効率、放射線管理の観点から、実質的にUTが標準検査として採用されている。
1.2 超音波探傷検査(UT)の物理メカニズム
UTは、高周波のパルス状超音波(通常2MHz〜5MHz)を斜角探触子(コンタクトプローブ)を用いて溶接部に入射させ、母材と溶接金属の音響インピーダンスの不連続面(すなわち欠陥)からの反射波(エコー)をとらえる手法である。
- パルス反射法:最も一般的に用いられ、エコーの高さ(波高値)と伝播時間から欠陥の大いさと位置を特定する。
- DAC法(距離振幅特性曲線法):人工欠陥(すじ状の穴やノッチ)からのエコー高さ基準線(DAC曲線)と比較し、検出されたエコーの大きさを評価する。
2. 実務上の実践:サンプリング率と合否判定基準
JASS 6(最新版に準拠)におけるUTの実施要領は、構造物の重要度、部材の種類、溶接継手の形状によって厳格に定められている。現場管理者が最も頭を悩ませる「サンプリング率」と「合否判定」の具体値を以下に示す。
2.1 検査のサンプリング率(抜取検査と全数検査)
すべての溶接部を100%検査するわけではなく、重要度に応じたサンプリング(抜取)が認められている。ただし、特定の重要箇所や初期不良の兆候が見られる場合は全数検査となる。
- 柱・梁の完全溶込み T継手・突合せ継手(現場溶接および工場溶接)
- 重要部(外法・通しダイアフラム周辺、高層建築の主要骨組みなど):原則として全数(100%)検査。
- 一般部(中低層建築の二次部材、床組など):設計図書に特記がない場合でも、主要構造部については抜取検査(通常は同一ロットの10%〜20%、または部位ごとに指定)。ただし、溶接施工工場(大臣認定工場など)のグレード(Mグレード、Hグレードなど)や施工実績に応じて割合が変動する。
- 溶接部抜け防止のための「自動抜取ルール」
- 抜取検査において不合格品が検出された場合の措置(リジェクト基準)は厳格である。
- 1箇所の不合格に対し、同一溶接士が手がけた同一ロットから追加で2倍の検査を行う。
- 追加検査でさらに不合格品が出た場合は、そのロットの全数検査に切り替える。
2.2 合否判定基準(JIS Z 3060に基づく評価)
JASS 6では、UTの合否判定は原則としてJIS Z 3060(溶接部の超音波探傷試験方法)の評価基準に従う。欠陥の大きさとエコー高さに応じて、ランク付け(Mランク、Hランクなど)が行われる。
| 評価区分 | エコー高さのレベル(DAC基準からの相対値) | 判定基準の概要 | 処置 |
| :— | :— | :— | :— |
| I 類(合格) | 許容値以下(ノイズレベル近傍、または判定基準線(L2線など)未満) | 構造上問題なし | 合格(そのまま次工程へ) |
| II 類(要確認) | L2線程度、または微小な欠陥が許容値近傍で検出される場合 | 補修の必要性を判断、または他の非破壊検査(RTや表面探傷)の併用 | 条件付き合格または詳細評価 |
| III 類(不合格) | L1線(許容限界線)を超えるエコー、あるいは連続する許容外の欠陥エコー | 構造耐力上致命的な欠陥(割れ、大きな融合不良)の可能性 | 不合格(はつり取り・再溶接補修が必須) |
- 割れ(Crack)の扱い:
JIS Z 3060およびJASS 6において、欠陥のエコーパターンが「割れ」を示唆する場合(急峻な立ち上がり、単一の強い反射等)、その大きさに係わらず無条件で不合格(III類相当以上)とされる。割れは疲労強度や靭性を著しく低下させるため、妥協が許されない。
3. 現場での実践・トラブル対策:UT検査を巡る課題と解決策
現場施工管理において、UT検査の実施時には多くのトラブルや手戻りが発生する。これらを未然に防ぐための実務的知見を提示する。
3.1 表面処理と探傷面の影響
- トラブル事例:黒皮(ミルスケール)、スパッタ、過剰な裏波・余盛りの凹凸が原因で、プローブが密着せず、偽陽性(ノイズ)や検査不能(デッドゾーンの発生)となる。
- 対策:
- 探傷範囲(溶接端部からプローブの音響軸距離+α)の母材表面は、ディスクグラインダー等により表面粗さ $Rz$ 25μm程度以下まで平滑に仕上げる。
- 塗料、サビ、油分は完全に除去する。
3.2 溶接施工条件と冶金学的欠陥の相関
UTで検出される欠陥の多くは、不適切な溶接施工条件に起因する。
- 高温割れ(凝固割れ):
- *原因*:クレータ部の処理不良、あるいは高熱量による急冷。特に厚板(SN鋼材など)の多層盛溶接で発生しやすい。
- *対策*:適切な予熱・パス間温度管理(例: 50℃〜150℃以上、鋼種による)。クレータ処理(タイトフィラーやクレータダ円処理)の徹底。
- ブローホール・ピット:
- *原因*:シールドガスの不足、ワイヤの吸湿、母材の水分・サビ。
- *対策*:CO2/MAG溶接時のシールドガス流量(通常20〜25 L/min)の厳守、風速2m/s以上の屋外での防風対策。
3.3 補修溶接における留意点
UTで「不合格」と判定された溶接部は、以下の手順で厳格に補修しなければならない。
1. 欠陥位置の特定とマーキング:UTの波形とプローブ位置から、ガウジングまたはグラインダーによるはつり取り範囲を決定する。
2. 欠陥の完全除去確認:はつり取り後、磁粉探傷試験(MT)や浸透探傷試験(PT)を実施し、割れや欠陥が完全に除去されたことを目視および表面探傷で確認する。
3. 再溶接:元の開先形状に準じて再溶接を行う。
4. 再UT検査:補修部およびその周辺について、再度UTを実施し、合格を確認する。同一箇所への過度な補修(2回以上の再補修)は母材の熱影響部(HAZ)の靭性を劣化させるため、構造設計者との協議が必要となる。
4. 専門的知見:JIS・ISO規格の体系的整合性
JASS 6に基づくUTを深く理解するためには、関連するJISおよびISO規格の体系を把握しておく必要がある。
[建築基準法・性能規定]
│
▼
[JASS 6(鉄骨工事標準仕様書)] ─── 現場実務のバイブル
│
├─ 探傷方法規格: JIS Z 3060(溶接部の超音波探傷試験方法)
├─ 試験員の資格: JIS Z 2305(非破壊試験技術者の資格及び認証) ISO 9712連動
└─ 母材・溶接材料規格: JIS G 3106(SM材) / JIS G 3136(SN材)
4.1 JIS Z 3060の役割と国際規格(ISO)との関係
JIS Z 3060は、鋼溶接部の超音波探傷試験のバイブルであるが、近年はISO規格(ISO 17640シリーズなど)との整合化が進んでいる。
- 探傷感度設定:JIS Z 3060では、DAC法または距離振幅補正(DAC)曲線、あるいはAVG法を用いるが、JASS 6が依拠するのは主にDAC法をベースとしたエコー高さ評価である。
- 探傷員の資格要件(JIS Z 2305):
JASS 6においてUTを実施・判定する技術者には、JIS Z 2305(ISO 9712)に基づくUTレベル2以上の有資格者であることが強く要求される。無資格者による探傷データの読み取りは品質保証上、無効とみなされる。
4.2 鋼材の特性(SN材・SM材)とUTへの影響
建築構造用圧延鋼材(SN材:建築構造用さび止め塗装鉄骨、JIS G 3136)や溶接構造用圧延鋼材(SM材:JIS G 3106)は、偏析や介在物(MnSなど)のコントロールがなされている。
しかし、極厚板(板厚40mm超など)やボックス柱のコーナー部などでは、母材内部に微小な偏析帯や介在物が存在する場合、UTの際に「疑似欠陥エコー(底面エコーの減衰やノイズ)」を引き起こすことがある。
プロの溶接管理技術者・UT検査員は、これが「溶接欠陥」であるのか、あるいは「母材由来の偏析(インクリネーション等)」であるのかを、横方向探傷やタンデム探傷などの応用技術を用いて的確に見極める冶金学的・非破壊検査的見識が求められる。