
熱間圧延方法
TMCPとは、Thermo-Mechanical Control Processの頭文字を綴った鋼製造技術の略称である。TMCPは制御圧延と組み合わせて、冷却速度と冷却開始・停止温度を制御し、フェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイトなど変態生成相の割合を選択し、所定の機械的性質と靱性を得る。
- SS材では(Ar3点よりかなり)高い温度で熱間圧延を行ったのち自然放冷するに対して、TMCP鋼は(Ar3点近傍の)より低い温度で制御圧延後、放冷または加速冷却を行う。(制御圧延・制御冷却を施している)
- 上記熱間圧延により、圧延加工後に起きる結晶粒の粗大化が抑制され、圧延後の加速冷却により組織が微細になる その為、TMCP鋼は同じ引張強さの通常圧延鋼材に比べて炭素当量が低く、溶接性に優れている
- TMCP鋼は通常の熱間圧延後、Ar3変態温度近傍の低い温度での熱間圧延を加えるので、再結晶が抑制され、フェライト粒が細かくなった結果、破面遷移温度が低くなる
特徴
- ミクロ組織の著しい細粒化による強度と靱性の向上がみられる
- 従来鋼に比しTMCP鋼は強度上昇に見合う分だけ炭素当量およびPcmを低くできる
- 組織改善を通じて脆性亀裂停止性能や耐水素誘起割れ特性を向上させることができる
- 高温加熱により、その組織の特徴が失われるので、熱間加工の用途には適していない
- 同じ強度レベルの通常熱間圧延鋼に比べて炭素当量が低いため、溶接熱影響部の硬化が少なく溶接性に優れている
- 焼入焼戻し(QT)鋼とTMCP鋼は原則として熱間加工を行ってはならない。それは、焼入焼戻し(QT)鋼は熱処理、TMCP鋼は制御圧延・制御冷却により組織を微細化して強度とじん性を高めているが、いずれの場合も熱間加工温度まで 加熱すると組織が粗大化し、機械的性質が低下するため
TMCP鋼の製造法の特徴について、圧延のままの鋼や焼きならし鋼の製造法と比較して示す
- 圧延のままの鋼や焼きならし鋼では(A3点よりかなり)高い温度で熱間圧延を行うのに対して、TMCP鋼はAr3点よりかなり高い温度での熱間圧延に加え、さらにAr3点直上の低い温度で集中圧延(制御圧延)する。 制御圧延のままの鋼は制御圧延(CR)鋼と呼ばれ、一種のTMCP鋼である。一般のTMCP鋼は制御圧延後に圧延ラインで加速冷却し、制御圧延・加速冷却(CR-AcC)鋼と呼ばれる
TMCP鋼のミクロ組織上の特徴と、溶接施工上の注意点
- 鋼のミクロ組織に関しては、圧延のまま鋼、焼きならし鋼、制御圧延、TMCP鋼(制御圧延、加速冷却)の順に金属組織の結晶粒は微細になっている。結晶粒が微細になると、強度もじん性も高まる。その為、TMCP鋼は同強度の従来材(圧延のまま鋼、焼きならし鋼) に比べて炭素当量を軽減できる。このため、熱影響部における効果やぜい化は従来鋼に比べて改善される。しかし。溶接時の過大な入熱を与えると熱影響部とくに2相加熱域でなんかすることがある。また、線上加熱の際にも最高加熱温度に注意する必要がある
詳細説明
熱間圧延法とTMCP(Thermo-Mechanical Control Process、熱機械制御処理)について、以下に詳しく説明します。
■ 熱間圧延とは
熱間圧延(Hot Rolling)は、鋼材を高温(一般に1000℃前後)に加熱して塑性(そせい)加工し、板や形鋼などの所定の形状に成形する加工法です。金属は高温になると柔らかくなり、加工しやすくなるため、大きな寸法の変形や連続生産に適しています。
熱間圧延の主な特徴は以下の通りです:
- 大量生産が可能でコストが安い
- 鋼材内部の欠陥を圧縮して健全化する効果がある
- 一般には圧延後、空冷されて黒皮(酸化皮膜)が生じる
- 加熱温度や圧延条件によって、最終的な機械的性質が大きく変わる
■ TMCP(熱機械制御処理)とは
TMCP(Thermo-Mechanical Control Process)は、鋼材の機械的性質(強度・靭性など)を制御するために、加熱、圧延、冷却の各工程を最適に制御する高度な熱間圧延プロセスです。
● TMCPの目的
- 高強度と高靭性を両立させる
- 溶接性や耐腐食性を改善する
- 鋼材の厚みを薄くして軽量化を実現する
● TMCPで制御される主な要素
- 再加熱温度の制御
適切な温度で均一に加熱することで、均質な組織の基盤を整えます。 - 多段圧延の導入
温度を段階的に下げながら複数回に分けて圧延を行い、結晶粒の微細化を促進します。 - 制御冷却(ACC:Accelerated Controlled Cooling)
圧延後、冷却速度や冷却温度を精密に制御することで、強靭な組織(ベイナイトやフェライトなど)を生成します。
■ TMCPの効果と利点
1. 強度と靭性の向上
- 結晶粒を微細化し、転位密度を調整することで、引張強さや降伏強さが向上。
- シャルピー衝撃値も高く、低温靭性にも優れる鋼材が得られる。
2. 溶接性の改善
- 従来は強度を上げると炭素量や合金量が増えて溶接性が悪化したが、TMCPでは低炭素・低合金設計で高強度化が可能。
3. 軽量化と省資源化
- 高強度のため、同じ強度条件でも薄く・軽くでき、構造物の軽量化やコスト削減に貢献。
4. 環境性能の向上
- 製品を薄くできるため、省エネルギー・二酸化炭素削減にも寄与。
■ TMCP鋼の用途
TMCPで製造された鋼材は、以下のような高性能が求められる分野で活用されています。
- 造船(船体用厚鋼板):軽量化と溶接性の向上に寄与
- 橋梁・建築構造物:耐震性・耐候性の向上
- 陸上・海上構造物:高強度・耐低温性が求められるプラント等
- 海洋プラットフォーム:高靭性と高強度が不可欠
■ TMCPと従来鋼との比較(例)
項目 | 従来鋼(正火材) | TMCP鋼(制御圧延+制御冷却) |
---|---|---|
強度 | 中程度 | 高強度 |
靭性 | 低~中程度 | 非常に高い |
結晶粒 | 粗大 | 微細化 |
溶接性 | 中~やや悪い | 良好 |
炭素当量(CE) | 高め | 低め |
■ まとめ
TMCPは熱間圧延工程における加熱、圧延、冷却の各ステップを高度に制御することで、従来の鋼材よりも高強度かつ高靭性、さらに良好な溶接性を実現する技術です。
特に大型構造物や低温環境での使用において、TMCP鋼は非常に重要な役割を担っており、日本を含む先進国の鉄鋼メーカーによって積極的に導入・発展しています。