裏はつり作業の要点
- 【作業の概要】
⇒表側初層溶接部に発生した欠陥をすべて除去する
⇒はつりで形成される開先の形状を、裏溶接において欠陥が発生しないようなものとする。例えば、開先底部がU形で裏表面に広がった形状
⇒裏はつり部に欠陥が残っていないことを、MT、PTなどで確認する - 【方法】
⇒エアアークガウジング(電極に炭素を使用)
⇒プラズマアークガウジング(電極にタングステンを使用、作動ガスにはアルゴンと水素の混合ガスを利用)
⇒ガスガウジング
⇒グラインダ研削
⇒機械切削
詳細説明
■ 裏はつりの目的
1. 完全溶込みの実現
裏はつりは、表側の開先溶接後に、裏面の未溶込み部分や酸化物、溶接欠陥などを除去することで、裏側からの溶接を確実に溶け込ませることを目的としています。これにより、溶接部全体が母材と同等の強度を持つ一体構造となります。
2. 溶接欠陥の防止
裏はつりによって、以下のような溶接欠陥の発生を防ぐことができます。
- 未溶込み
- スラグ巻き込み
- ブローホール
- クラック(割れ)
これらの欠陥は、特に圧力容器や橋梁、建築鉄骨、原子力機器など、高い安全性と信頼性が要求される構造物では致命的となるため、裏はつりの重要性は非常に高いです。
■ 裏はつりの適用範囲
裏はつりは、以下のような場面で多用されます。
- 厚さ6mm以上の鋼板の完全溶込み溶接
- 裏当て金なしでの両面開先溶接
- パイプやタンクの突合せ溶接部
- 製缶構造物、圧力容器、造船、重機構造など
また、裏はつりが不要となるケースでは、「裏当て金(バックバー)を使用して一方向から完全溶込みを得る方法」などもあります。
■ 裏はつりの方法
裏はつりは、以下のいずれかの方法で行われます。
1. グラインダー(ディスクグラインダ)による機械的除去
最も一般的な方法であり、表側の溶接後に、裏面からグラインダーで未溶込み部を削り取る方法です。熟練の技術が必要で、削り過ぎや削り残しに注意します。
2. アークエアガウジング(炭酸ガス+炭素電極)
エアアークガウジングは、炭素電極とアーク熱を使って裏面を局所的に溶かし、圧縮空気で溶融金属を吹き飛ばす方法です。効率よく大量の金属を除去できますが、騒音・火花・スパッタが多いため、安全管理が重要です。
3. プラズマガウジング
プラズマアークを利用して削る方法で、精密性が高く、薄板や精密溶接部に向いている。アークエアガウジングより熱影響が少ないのが特徴です。
■ 裏はつり後の作業手順
裏はつりが完了した後は、以下の作業が通常行われます。
- 外観検査:削り残し、割れ、酸化皮膜の有無を目視検査
- 清掃:スラグや削りカスを完全に除去(ワイヤーブラシやエアブロー)
- 非破壊検査(必要に応じて):浸透探傷試験(PT)などで欠陥確認
- 裏側からの溶接:完全溶込みを確保するために、裏から再溶接を実施
- 仕上げと検査:全体の品質確認と必要な処理(例えば補修、研磨など)
■ 裏はつりの注意点
裏はつりは作業ミスによって以下の問題が生じる可能性があります。
- 削り過ぎによる開先の広がりや母材の減肉
- 削り残しによる未溶込みや割れの残留
- 溶接熱の影響による焼けや変形
- 熱影響部(HAZ)の脆化や応力集中
これらを防ぐため、裏はつりは熟練した作業者による確実な作業が求められます。JISやAWSなどの規格では、裏はつり後に再開先を形成し、完全に健全な母材を露出させることが推奨されています。
■ 裏はつりの必要性が高い分野
- 橋梁や鉄道車両:疲労破壊を防ぐための高品質な溶接
- 高圧配管やタンク:漏洩防止のための完全溶込み溶接
- 船舶・海洋構造物:耐食性と強度が同時に求められる構造部
- 建築物の主要骨組み:耐震性能や長期信頼性の確保
■ まとめ
「裏はつり」は、溶接部の裏面から不要な金属や酸化物を除去し、完全溶込み溶接を実現するための重要な工程です。特に構造的に重要な部位や高強度・高信頼性が求められる溶接において、欠かせない作業となっています。
作業には高度な技能と正確さが求められ、不適切な裏はつりは重大な溶接欠陥を招く可能性があります。従って、溶接設計段階から裏はつりの必要性を判断し、適切な施工計画・検査・品質管理を徹底することが不可欠です。