溶接機の許容使用率

実際の溶接電流が定格出力電流と異なる場合、以下の式で計算することが一般的です。

許容使用率の計算式

許容使用率 = (定格出力電流/溶接電流)^2 × 定格使用率(%)


具体的な意味

  • 定格出力電流:溶接機が定格として示している最大電流(例えば150A)
  • 溶接電流:実際に溶接で使用する電流(例えば100A)
  • 定格使用率:定格出力電流に対しての使用率(例えば60%)

定格出力電流150A、定格使用率60%の溶接機を100Aで使用した場合、

許容使用率 = (150/100)^2 × 60% 

      = (1.5)^2 × 60% 

      = 2.25 × 60%

      = 135%

つまり、100Aでは135%となり、理論上は10分間中13.5分分の使用が可能、つまり連続して問題なく使えることになります(使用率100%が上限のため、連続使用が可能と解釈)。


補足

  • 許容使用率は100%を超えても連続使用100%が最大の意味ですので、100%以上は「連続使用可能」と判断します。
  • この式は機械の熱容量に比例する発熱量(電流の二乗に比例)を考慮したもので、実際の運用管理でよく使われます。

許容使用率の詳細説明

1. 許容使用率の定義

許容使用率とは、溶接機が連続的に使用可能な時間の割合の上限を示す数値であり、溶接機の仕様として示される重要な性能指標です。主に10分間の運転サイクルを基準に、

「10分間のうち、何分間連続して溶接を行っても過熱等の故障が起きないか」

を示します。

例えば、許容使用率が60%であれば、10分間のうち最大6分間は連続溶接が可能で、残り4分間は冷却時間として設ける必要があります。


2. なぜ許容使用率が重要なのか

2-1. 溶接機の熱的制約

溶接機は高電流を流すことで熱を発生します。この熱は機械内部の電子部品や変圧器、コイルなどに蓄積され、放熱が追いつかない場合、機械の性能劣化や故障を招きます。許容使用率は、これらの熱的限界を踏まえた安全な運転時間の最大値を示しているため、使用率を守ることは機械の寿命を延ばし、故障を防ぐことに直結します。

2-2. 安全性の確保

許容使用率を超えて連続使用すると、機械内部が過熱し、過電流保護や過熱保護機能が作動して機械が停止しますが、過度の負荷は部品損傷や火災の原因になることもあります。作業者の安全を守るためにも、許容使用率の範囲内で運用することが必要です。


3. 許容使用率の表示と規格

日本工業規格(JIS)や国際規格(IEC 60974-1など)では、溶接機の許容使用率は10分間を基準とした割合(%)で表示されることが一般的です。製品の仕様書や本体の銘板に必ず記載されています。

例えば、

  • 許容使用率:60%(150A)
  • 許容使用率:100%(100A)

という表記は、「150Aで60%の使用率」、「100Aで100%連続使用可能」という意味です。


4. 許容使用率の測定と算出方法

許容使用率はメーカーの試験により以下の手順で決定されます。

  1. 一定電流(例:定格電流)を流し、溶接機を運転開始
  2. 内部温度を監視しながら連続運転を継続
  3. 設定温度(機械の耐熱限界)に達するまでの連続運転時間を計測
  4. 10分間を基準に、その連続運転可能時間の割合を算出

例えば、連続使用時間が6分間なら許容使用率は60%となります。


5. 許容使用率と溶接電流の関係

許容使用率は溶接電流に依存し、高電流ほど許容使用率は低下します。理由は高電流による発熱が多く、冷却時間を長くとる必要があるためです。以下のような傾向が一般的です。

溶接電流(A)許容使用率(%)
100100
15060~80
20040~60
30020~40

このため、作業内容に応じた適切な電流設定と許容使用率のバランスが重要となります。


6. 許容使用率の運用上の注意点

6-1. 過熱保護機能との連携

多くの現代溶接機は温度センサーや電子回路により過熱時には出力を自動制限し、使用率超過を防ぎます。しかし、頻繁に保護機能が作動すると作業効率が低下するため、適切な運用計画が求められます。

6-2. 冷却条件の影響

周囲温度、設置環境、冷却ファンの性能や状態によっても許容使用率は変わります。例えば高温環境下では冷却効率が落ち、許容使用率は実質的に低下します。

6-3. 連続使用時間の管理

許容使用率を守るためには、作業者は連続溶接時間と休憩時間(冷却時間)を計画的に管理する必要があります。連続使用時間が許容範囲を超えないようにし、冷却時間を確保することが機械の故障予防に繋がります。


7. 許容使用率の設計への影響

許容使用率は溶接機の設計段階で重要な設計指標として用いられます。冷却方式(空冷・水冷)、変圧器やトランスの大きさ、内部回路の効率化により許容使用率は向上します。

たとえば、

  • 水冷式溶接機は空冷式に比べて効率的に熱を除去できるため、一般に高い許容使用率を持ちます。
  • インバータ制御式溶接機は電子制御により熱損失を抑え、高使用率を実現しています。

8. 許容使用率に関連する安全規格

各国の安全規格や国際規格では、溶接機の許容使用率表示とその管理について明確に定めています。これらの規格に準拠することで、製品の安全性と信頼性を保証しています。


9. 実務での許容使用率の活用例

  • 機械選定: 長時間連続作業が多い場合、許容使用率の高い溶接機を選定する。
  • 作業計画: 使用率を考慮した連続運転時間と冷却時間を設定し、効率的に作業を進める。
  • 保守点検: 冷却ファンの清掃や交換で許容使用率の維持を図る。

10. まとめ

許容使用率は溶接機の熱的制限を反映した連続使用可能な最大時間の割合であり、機械の寿命、安全性、作業効率を確保するうえで不可欠な指標です。適切な許容使用率を守り、過熱保護機能や冷却機構と連携しながら運用することで、故障リスクを低減し高品質な溶接作業を継続できます。

溶接作業を計画する際には、許容使用率の理解と管理が欠かせません。周囲環境や機械のメンテナンス状態も考慮しながら、機械性能を最大限に活かす運用を心掛けましょう。

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