「スラッグ巻き込み」を未然に防ぐ運棒の角度と速度の黄金比

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被覆アーク溶接における「スラッグ巻き込み」完全制御術:運棒角度と速度の黄金比

被覆アーク溶接(JIS Z 3001-1:SMAW)において、最も忌むべき欠陥の一つが「スラッグ巻き込み」である。これは溶接金属内に溶融スラグが取り残される現象で、放射線透過試験(RT)や超音波探傷試験(UT)において致命的な欠陥となる。本稿では、現場の職人が体得している「運棒の角度」と「アークの進み速度」の物理的相関を、冶金学的観点から解き明かす。

1. スラッグ巻き込みのメカニズム:なぜ「そこ」に溜まるのか

スラッグ巻き込みの主因は、「溶融金属の凝固速度」と「スラグの浮上速度」の逆転にある。

  • 物理的要因: スラグは溶融金属よりも比重が軽く、本来は表面に浮上する性質を持つ。しかし、溶融池(プール)の形状が適切でない場合、あるいは進行速度が速すぎる場合、溶融金属がスラグを追い越し、背後に閉じ込めてしまう。
  • 冶金学的要因: 溶接棒の被覆剤(イルミナイト系、ライムチタニア系、低水素系など)の種類により、スラグの粘性と凝固温度が異なる。特に低水素系溶接棒はスラグの流動性が低く、適切な運棒を行わないと溶融池の隅に「スラグの溜まり場」が形成されやすい。

2. 運棒角度と速度の黄金比:現場実践の絶対法則

スラッグ巻き込みを防ぐための運棒は、「前進角」の厳守「溶融池の先行」がすべてである。

前進角(ドラッグ角)の適正化

  • 下向き溶接: 溶接棒を進行方向に対し 70°〜80° の前進角で保持する。この角度により、アークの力(アークフォース)で溶融スラグを常に進行方向前方へ押し出す力が働く。
  • 横向き溶接: 前進角を 80°〜90° に保ちつつ、母材の上側(または下側)の開先面を重点的に狙う。スラグが重力で垂れ落ちる前に、アークの熱量で母材を十分に溶かし込み、溶融金属をスラグの下に潜り込ませるイメージを持つこと。

溶接速度と電流のバランス

スラッグ巻き込みを誘発する最大のミスは「速度過多」である。

  • 速度の目安: 溶融池の先端(アークが当たっている点)が、スラグの先端よりも常に先行していることを目視する。もしスラグの末端が溶融池を追い越そうとする兆候が見えたら、即座に運棒速度を落とすか、運棒の幅(ウィービング)を狭める。
  • 電流値: 適正電流の範囲内で「高め」に設定することが有効である。電流が低いと溶融池が冷えやすく、スラグが凝固する速度が速まるため、巻き込みリスクが飛躍的に高まる。

3. 形状別・トラブル回避の極意

下向き溶接(開先内)

開先が狭い場合、溶接棒が側壁に触れてアークが不安定になり、スラグが側壁に残りやすい。

  • 対策: ウィービングを行う際は、「側壁で一時停止(2秒程度)」を行い、母材を確実に溶融させることが重要である。この停止を怠ると、側壁と溶接金属の間に微細なスラグが挟まる「融合不良(Lack of Fusion)」を誘発する。

横向き溶接(水平すみ肉)

最もスラグが滞留しやすい。

  • 対策: アークの狙い位置を「下板」にやや多めに置く。上板の溶融金属は重力で下に垂れるため、あらかじめ下板を十分に加熱・溶融させておき、そこに上板からの溶融金属を「受け止める」感覚で運棒する。

4. 冶金学・規格的裏付けと品質管理

JIS Z 3104(鋼溶接継手の放射線透過試験)との関連

スラグ巻き込みは、RTにおいて「線状または粒状の暗い影」として現れる。特に多層盛り溶接の場合、層間のスラグ除去(スラグ剥離)が不完全なまま次層を重ねると、欠陥が累積する。

  • 層間清掃の徹底: 溶接の各パス終了後、グラインダーやワイヤーブラシでスラグを完全に除去すること。これが規格に適合する品質を保証する唯一の手段である。

溶接条件の適正化データ(目安)

| 溶接棒径 (mm) | 適正電流 (A) | 運棒のコツ |
| :— | :— | :— |
| 2.6 | 60 – 90 | 狭いウィービング、一定の速度 |
| 3.2 | 90 – 130 | 側壁での停止を確実に(溶込み重視) |
| 4.0 | 130 – 180 | アーク長を短く維持(3mm以内) |

  • アーク長の制御: 被覆アーク溶接では、アーク長を長くしすぎると大気中の窒素や酸素が巻き込まれ、スラグの流動性が変化して巻き込みを誘発する。常に「短アーク(溶接棒径と同等程度)」を維持すること。

5. プロの視点:最終的な判定基準

溶接完了後、スラグが自然に剥離している状態(自己剥離)であれば、溶接条件と運棒が適正であったと判断できる。逆に、スラグが母材やビード面に強固に張り付いている場合は、以下のいずれかの問題が隠れている。

1. 電流不足: 入熱が足りず、スラグが十分に浮上していない。
2. 角度不良: 前進角が立ちすぎており、スラグを追い越している。
3. 運棒幅の過大: 溶融池が大きすぎて、スラグの制御が効かなくなっている。

これらの理論を現場で応用し、溶融池の挙動を「目」と「音(アーク音の安定性)」でコントロールすること。これこそが、欠陥ゼロを実現する熟練職人の技術的本質である。

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