AWS A5.17 / A5.23 サブマージアーク溶接(SAW)用ワイヤとフラックスの規格

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AWS A5.17 / A5.23 サブマージアーク溶接(SAW)用ワイヤ・フラックス規格の完全解説

サブマージアーク溶接(Submerged Arc Welding:SAW)は、造船、橋梁、圧力容器、建築鉄骨などの分野において、厚板の突合せ溶接や隅肉溶接を高能率・高品質で行うための基幹プロセスである。アークが粒状のフラックスに覆われて外部から見えない(サブマージ)状態で行われるため、スパッタが極めて少なく、大電流による深い溶込みと高い溶着速度を得ることができる。

本稿では、SAWにおける心臓部である「ワイヤとフラックスの組み合わせ」に焦点を当て、AWS(米国溶接協会)規格の読み方、フラックスの製造方法による特性の違い、そして現場で直面するトラブルシューティングと冶金学的なアプローチについて、調達担当者および溶接施工管理者の実務に直結するレベルで徹底解説する。

1. SAWの基礎知識とワイヤ・フラックスのメカニズム

1.1 サブマージアーク溶接の原理

SAWは、母材と連続供給されるベアワイヤ(ソリッドワイヤ)との間にアークを発生させ、その熱によってワイヤ、母材、および周辺の粒状フラックスを溶融させる。

  • スラグの形成: 溶融したフラックス(スラグ)が溶融金属を覆い、大気中の窒素や酸素の侵入を物理的・化学的に遮断する。
  • 冶金的反応: フラックス中の成分(脱酸剤、合金元素)が溶融プールと反応し、溶着金属の化学成分や機械的性質(強度、靭性)を調整する。
  • 残渣フラックスの回収: 未溶融のフラックスは回収・再利用される。

1.2 ソリッドワイヤとフラックスの役割分担

  • ワイヤ: 基本的な化学成分(C, Si, Mnなど)の供給源。SAW用ワイヤは一般的にシールドガスを使用しないため、ワイヤ自体には強力な脱酸剤(SiやMn)が適量含有されている。
  • フラックス: アークの安定化、スラグの剥離性向上、そして最も重要な「溶着金属の合金化と清浄化(不純物の除去)」。

2. 溶融型フラックスと焼成型フラックスの決定的な違い

フラックスの製造方法には大きく分けて「溶融型(Fused)」と「焼成型(Bonded / Agglomerated)」があり、それぞれ特性、用途、コストが異なる。

| 項目 | 溶融型フラックス(Fused) | 焼成型フラックス(Bonded / Agglomerated) |
| :— | :— | :— |
| 製造プロセス | 原料を電気炉で完全に溶融・混合後、急冷・粉砕・粒度調整。 | 原料粉末に水ガラス等のバインダーを混ぜ、造粒・低温(数百℃)焼成。 |
| 吸湿性 | 極めて低い(ガラス質のため水分をほぼ含まない)。 | 高い(多孔質構造のため、大気中の水分を吸湿しやすい)。 |
| 合金添加の可否 | 不可(高温溶融時に成分が飛散・変質するため、合金成分を添加できない)。 | 可能(焼成温度が低いため、Mn, Mo, Niなどの合金鉄や脱酸剤を直接添加できる)。 |
| 多層盛溶接性 | 劣る(スラグの脱残性が硬いが、逆に高速溶接には向く)。 | 優れる(スラグの剥離性が良く、特に多層盛でのピット防止に有利)。 |
| 粒度の均一性 | 粉砕工程を経るため、微粉の混入や粒度偏析がおきやすい。 | 造粒工程のため粒度が揃いやすく、リサイクル時の組成変化が少ない。 |
| 主な用途 | 一層盛・二層盛の高速溶接、ラインパイプ造管、造船の床板溶接。 | 厚板の多層盛溶接、圧力容器、低温用鋼の全姿勢・高靭性確保が必要な部材。 |

現場選定の勘所

  • 造船・造管(高能率・一層〜二層): 吸湿リスクが少なく、連続作業で安定する溶融型が好まれる。
  • 厚板・圧力容器・橋梁(多層盛・高靭性要求): 合金成分の添加や脱酸コントロールが精密に行える焼成型が必須となる。ただし、使用前の厳格な乾燥管理(例: 300〜350℃×1〜2時間)が絶対条件となる。

3. AWS規格の完全読解(A5.17 と A5.23)

AWS規格では、ワイヤ単体の記号に加え、「ワイヤとフラックスの特定の組み合わせ」に対して分類記号が与えられる。これが実務上最も重要なポイントである。

3.1 AWS A5.17:炭素鋼用 SAW ワイヤ・フラックス規格

主に引張強さ70 ksi(約490 MPa)級までの炭素鋼用。

【分類記号の読み方例】: `F 7 A 2 – E M 1 2 K`

1. `F`: フラックス(Flux)を示す。
2. `7`: 溶着金属の最低引張強さ(70 ksi = 最低 70,000 psi ≒ 483 MPa)。

  • `6` = 60 ksi (414 MPa級)
  • `7` = 70 ksi (483 MPa級)

3. `A` または `Z`: 熱処理条件(Condition of Heat Treatment)

  • `A` = 溶接のまま(As-Welded)
  • `P` = 焼鈍・焼戻し等の熱処理後(Postweld Heat Treated / PWHT)

4. `2`: シャルピー衝撃試験で 20 ft-lbf (約 27 J) の吸収エネルギーを確保できる最低温度

  • `0` = 0°F (-18℃)
  • `2` = -20°F (-29℃)
  • `4` = -40°F (-40℃)
  • `6` = -60°F (-51℃)

5. `- E`: 電極ワイヤ(Electrode)を示す。
6. `M 1 2 K`: ワイヤの化学成分記号(例: `EM12K` は Mn系、ケイ素脱酸、低炭素のソリッドワイヤ)。

3.2 AWS A5.23:低合金鋼用 SAW ワイヤ・フラックス規格

高張力鋼(80 ksi以上)、耐熱鋼(Cr-Mo鋼)、低温用鋼(Ni鋼)などの低合金鋼用。構造はA5.17とほぼ同じだが、強度等級(80, 90, 100, 110 ksi…)や合金元素(`B2`, `Ni1` など)がワイヤ・フラックスの組み合わせで指定される。

【分類記号の読み方例】: `F 8 P 4 – E N i 1 – M i 1`

  • `F 8`: 最低引張強さ 80 ksi (550 MPa級)
  • `P`: PWHT(熱処理あり)施工
  • `4`: -40°F (-40℃) での衝撃値保証
  • `ENi1`: 1% Ni系ワイヤ
  • `Mi1`: フラックスの特性分類(メーカー固有または詳細な化学・機械特性の組み合わせ指定)

4. 実務で役立つ溶接条件の目安とデータ

SAWは「大電流・高電圧」による高能率が最大の武器であるが、パラメータの選定を誤ると、ハンギング、スラグ巻き込み、高温割れなどの重大な欠陥を引き起こす。

4.1 一般的な鋼板(厚さ 25mm 程度)の突合せ一層・二層盛条件(目安)

  • ワイヤ径: $\phi 4.0\text{mm}$ または $\phi 4.8\text{mm}$
  • 溶接電流: $600\text{ A} \sim 800\text{ A}$(直流正極性 DCEP が主流。場合によっては交流 AC を使用して磁気吹きを防止)
  • アーク電圧: $28\text{ V} \sim 35\text{ V}$(電圧が高すぎるとビードが広がりスラグ巻き込みの原因に、低すぎるとビードが盛り上がりすぎてアンダカットやスラグ噛みが発生)
  • 溶接速度: $30\text{ cm/min} \sim 60\text{ cm/min}$
  • 突出し長さ(Stick-out / CTWD): $30\text{ mm} \sim 40\text{ mm}$(ワイヤ径の 8〜10倍が基本。長すぎると抵抗発熱でワイヤが赤熱し、短すぎるとチップが焼き付く)

5. 現場のトラブルシューティングと冶金学的対策

調達・施工現場で頻発するSAW特有のトラブルと、その原因および解決策を冶金学の観点から整理する。

トラブル1:ピット(Blowhole / Pinhole)の発生

  • 現象: 溶着金属の表面や断面に小さな気孔(巣)が無数に発生する。
  • 原因:

1. フラックスの吸湿(特に焼成型フラックスの水分管理不良による水素・一酸化炭素ガスの巻き込み)。
2. 母材の開先面の錆、油分、水分、プライマー(ショッププライマーの膜厚過多)。
3. 電流・電圧のバランス不良によるアークの不安定化。

  • 対策:
  • フラックスは指定温度(一般に 300〜350℃)で 1〜2時間必ず再乾燥させる。
  • 開先面のグラインダー清掃を徹底する。ショッププライマーは可能な限り薄膜(推奨 15〜20 $\mu\text{m}$ 以下)の溶接用プライマーを使用する。

トラブル2:スラグ巻き込み(Slag Inclusion)

  • 現象: ビードの端部や多層盛の層間にスラグが取り残される。
  • 原因:

1. アーク電圧が高すぎる、または溶接速度が遅すぎる(ビードが平坦になりすぎてスラグが溶融金属の先行を覆う)。
2. 開先角度が狭すぎる、またはルート間隔が狭い。
3. 前層のスラグの除去不良(多層盛の場合)。

  • 対策:
  • 電圧を下げ、アーク長を短くする(ビードをやや盛り気味にする)。
  • 適切な開先形状(一般にV形なら60°以上、X形なら各面50°以上)を確保する。
  • 層間はワイヤブラシやチッピングハンマーで完全にスラグを除去する。

トラブル3:高温割れ(Solidification Cracking / センターラインクラック)

  • 現象: ビード中央部に沿って長手方向に亀裂が入る。
  • 原因:

1. 溶接金属中の炭素(C)や不純物(P, S)の偏析。
2. 深い溶込み(High penetration)に対してビード幅が狭すぎる(縦横比のバランス不良=形状因子が悪い)。高電流・高電圧条件での高速溶接時に起きやすい。

  • 対策:
  • 電流を下げ、電圧をやや上げる、あるいはウィービング(オシレート)を入れてビード幅を広げ、形状因子(幅÷深さ)を 1.2 以上に改善する。
  • PやSの低い母材・ワイヤを選定する。フラックスによる脱酸・脱硫能力の高い組み合わせに変更する。

トラブル4:低温割れ(Cold Cracking / 遅れ破壊)

  • 現象: 溶接後、数時間から数日経ってから発生する亀裂。
  • 原因: 拡散性水素、高硬度組織(マルテンサイト)、および高い拘束応力の3要素が揃うことによる。
  • 対策:
  • フラックスおよびワイヤの徹底的な乾燥管理(水素源の排除)。
  • 必要に応じ、鋼材の炭素当量(Ceq)に応じた予熱・パス間温度の管理(例: 100〜200℃)を行う。
  • 低水素系(ライムチタニア系や低水素系フラックスの選定、または適切な焼成型フラックスの活用)を徹底する。

6. 調達・営業段階における選定チェックリスト

材料商社や部品調達において、顧客からSAW材料の選定・見積もり依頼を受けた際、必ず確認すべき事項を以下にまとめる。

1. 母材の規格と引張強さ: JIS G 3106 (SM490, SM570) や JIS G 3115 (SB480) など、母材の強度レベルに合致したAWS記号(F7x, F8xなど)か。
2. 熱処理(PWHT)の有無: 溶接後に炉中焼鈍などの熱処理を行うか否か。熱処理条件によって「A(溶接のまま)」か「P(PWHT後)」のフラックス・ワイヤ選定が変わる。
3. 低温靭性要件: シャルピー試験の要求値(例: -20℃で 47J以上など)を満たすワイヤ・フラックスの組み合わせ(記号の末尾数字)になっているか。
4. 施工姿勢と溶接パス数: ほぼ全周が下向き・水平の定置式自動溶接(一層・二層)か、厚板の多層盛(マルチパス)かにより「溶融型」か「焼成型」かを最適化する。
5. 母材表面の状態: ショッププライマーが厚く塗布されている場合、ピットが発生しやすいため、耐ピット性に優れたフラックス(ガス抜けの良い銘柄)を指定する必要がある。

サブマージアーク溶接は、適切なワイヤ・フラックスの選定と厳格な施工管理(特にフラックスの乾燥と開先清浄度)を行えば、極めて高い品質と生産性を発揮する。本規格知識と現場対策を網羅的に押さえることで、単なるモノ売りではない、技術的信頼性の高い提案が可能となる。

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