JIS/ISO規格が求めるブローホール許容値と非破壊検査での判定基準

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溶接ブローホール・ピットの完全制圧:JIS/ISO規格の許容限界と現場判定基準

現場でビード表面に顔を出すピット、あるいは非破壊検査のレントゲン(RT)や超音波(UT)で発覚する内部のブローホール。
「これくらいの気泡なら許されるのか、それともハツって(削って)再溶接すべきか」——この判断を誤れば、構造物の致命的な強度低下を招くか、あるいは過剰品質による膨大な工期ロスとコストの無駄を生む。

本記事では、溶接現場の最前線で戦う技術者・検査員に向け、ブローホール・ピットの発生メカニズムから、JISおよびISO規格が求める厳密な許容値、そして非破壊検査での合否判定の境界線を、一切の妥協なく数値と冶金学的裏付けをもって解説する。

1. 基礎知識:ブローホール・ピットの発生メカニズム

ブローホールとピットの本質的な違い

  • ピット(Pit): 溶接金属の表面に開口した気孔。目視検査(VT)で直接確認できる。
  • ブローホール(Blowhole): 溶接金属の内部に閉じ込められた気泡。目視では確認できず、非破壊検査(RT、UT)を要する。

これらは総称して「気孔(Porosity)」と呼ばれ、溶融金属が凝固する際、溶解していたガスが外に抜けきれずに取り残されることで発生する。

冶金学的メカニズム:なぜガスが閉じ込められるのか?

液体状態の金属は、固体状態の金属に比べて圧倒的に多くのガスを溶かし込むことができる。
しかし、アーク熱(数千℃)によって溶けたプールが急冷・凝固する際、金属中の溶解度は急激に低下する。このとき、追い出されたガス(主に水素、一酸化炭素、窒素)が気泡となり、浮上しようとする。
凝固速度(溶接速度)がガスの浮上速度を上回ると、気泡は金属内部や表面に捉えられ、ブローホールやピットとして固定化される。

  • 水素ガス $\text{(H}_2\text{)}$ の原因: シールド不良、母材・ワイヤ・被覆アーク溶接棒の吸湿(水分)、油分・錆・塗料などの有機物残存。
  • 一酸化炭素 $\text{(CO)}$ の原因: 炭素と酸素の反応($\text{C} + \text{O} \to \text{CO}$)。特にシールドガスの不足や、不適切なワイヤ脱酸剤(SiやMnの不足)によるもの。
  • 窒素ガス $\text{(N}_2\text{)}$ の原因: 風の巻き込み、シールドガスの流量不足(CO2/Arのガス切れ、あるいは風速2m/s以上の環境での施工)。

2. 現場での実践・トラブル対策:発生要因の切り分けと具体的な処方箋

現場でブローホールが多発した際、闇雲に電流や電圧をいじっても解決しない。原因を特定し、ピンポイントで対策を打つ必要がある。

発生要因別の切り分けと対策データ

| 発生要因 | 具体的な現象・兆候 | 現場で打つべき具体的対策(数値・条件) |
| :— | :— | :— |
| 溶接材料の吸湿 | 被覆アーク溶接棒(低水素系)の放置。半自動ワイヤの錆び。 | ・低水素系溶接棒(JIS Z 3212など):350〜400℃で1〜2時間の再乾燥。
・ワイヤ保管:乾燥庫(湿度50%以下)での保管。 |
| 母材のコンタミ | 開先面やその周辺の油分、水分、プライマー、錆。 | ・アセトンやシンナーによる脱脂洗浄。
・グラインダー掛けによる母材地肌の露出(端面から20mm以上)。 |
| シールド不良 | 黒いスス(酸化物)の付着、ポコポコという異常音。 | ・シールドガス流量の適正化(MAG/MIG: 20〜25 L/min、TIG: 10〜15 L/min)。
・チップ・ノズルのスパッタ清掃、コンタクトチップの摩耗点検。
・防風スクリーンの設置(風速2m/s以上で発生リスク急増)。 |
| 過大・過小な入熱 | ビーディングの急冷、あるいはガス抜けを阻害する過大電流。 | ・溶接速度の適正化(極端な高速溶接はガスが逃げる暇がない)。
・予熱の実施(厚板や高炭素鋼の場合、100〜200℃の予熱で冷却速度を緩やかにする)。 |

3. 専門的知見:JIS/ISO規格が求めるブローホール許容値と判定基準

「気孔がゼロの溶接構造物」を作ることはコスト面・施工面で非現実的である。そのため、各種規格では「構造物の強度や疲労寿命に悪影響を及ぼさない範囲での許容値(欠陥のサイズ、個数、総面積の制限)」が明確に規定されている。

① JIS Z 3104(鋼溶接継手の放射線透過試験方法におけるきずの分類及び像質値)

圧力容器や配管、重要構造物のRT(放射線透過試験)における合否判定のバイブル。
きずの大きさと分布に応じて、1種(点状きず)、2種(すだれ状きず)、3種(棒状きず)、4種(スラッグ・タングステン巻き込み)に分類される。

  • ブローホール(点状きず・気孔群)の許容基準:
  • 母材の厚さ($t$)を基準に、きずの大きさ(長径)が規定される。
  • 1級・2級・3級の等級が存在し、要求される品質(設計圧力や荷重条件)によって設計図書で指定される。
  • 一般に、きずの最大長さが板厚の $t/3$ を超えるもの、あるいは一定の面積内(例えば $10t \times 10t$ の正方形内)に許容個数を超える気孔が密集しているものは不合格(補修対象)となる。

② ISO 5817(溶融溶接継手-鋼、ニッケル、チタン及びその合金の不完全さの等級)

国際基準(ISO)において、溶接欠陥の品質レベルを定義する規格。現在の日本の多くの産業機械、橋梁、建築基準でも参照されている。
ISO 5817では、品質レベルを以下の3段階に分類している。

  • B級: 高い品質要件(動的負荷を受ける重要構造物、圧力容器など)
  • C級: 中程度の品質要件(一般的な静的負荷構造物)
  • D級: 低い品質要件(簡易的な構造物)

# ISO 5817における気孔(Porosity / 規格番号 2011)の許容限界(抜粋)

気孔の許容値は、投影面積率(一定の溶接長における気孔が占める面積の割合)および個数・大きさで制限される。

  • 単一気孔(Isolated pore)の最大許容寸法 ($d$):
  • B級(高): $d \le 0.2 \times t$ または最大 $4\text{ mm}$ まで。
  • C級(中): $d \le 0.3 \times t$ または最大 $5\text{ mm}$ まで。
  • D級(低): $d \le 0.4 \times t$ または最大 $6\text{ mm}$ まで。

*(※ $t$ は溶接継手の板厚。ただし、フィレット溶接の場合は喉厚 $a$ を基準とする)*

  • 気孔群(Clustered porosity / 2013)および分布気孔(Distributed porosity / 2012):
  • 溶接長の特定区間(例:$100\text{ mm}$)内における許容投影面積が厳しく規定される。
  • B級では極めて厳しく、わずかな気孔の密集も不合格となる一方、D級では比較的緩やかな許容値となっている。

③ 建築基準法・JIS G 3106(溶接構造用圧延鋼材)関連の現場運用

建築鉄骨の現場(JIS S 012 あるいは建築工事標準仕様書 JASS 6)における超音波探傷試験(UT)では、ブローホール単体というよりも、「エコー高さ(欠陥のエコーがどの程度の大きさか)」と「連続性」で判定される。

  • 独立した小さな球面状のブローホール(点状欠陥)は、UTにおいてエコー高さが低く、許容判定(合品)となることが多い。
  • 一方、ワームホール(虫食い状の連続気孔)やスラグ巻き込みが連続しているものは、断面積欠損とみなされ、即座に「はつり補修」の指示が下る。

4. 現場での判定実務:許容範囲と補修対象の境界線

検査結果(RTフィルム、UT波形、VT目視)を目の前にしたとき、職人や現場監督が下すべき判断のフローは以下の通り。

1. 設計図書の要求規格を確認する

  • JIS Z 3104の等級(1級〜3級)か、ISO 5817の等級(B〜D級)か、あるいは独自の社内規格かを必ず確認する。

2. ピット(表面欠陥)の場合の判定

  • JISやISOでは、表面のピットは内部のブローホールよりも厳しく見なされることが多い(応力集中源になりやすいため)。
  • 多くの構造規格において、「径が $1\text{ mm}$ を超える表面ピット、または深さ方向が母材を損なうもの」は、原則として補修対象となる。

3. 内部ブローホール(内部欠陥)の場合の判定

  • フィルムや探傷データ上で規定値内(例:ISO 5817 C級の許容寸法以下、かつ個数が制限内)であれば、「合格(そのまま次工程へ進行)」とする。ここで過剰に補修を行うことは、熱歪みの増大や新たな欠陥(補修溶接による溶け込み不良やブローホールの再発)を招くため御法度である。
  • 許容値を超えている場合は、マーキングを行い、エアータガネやグラインダーで健全な金属層が出るまで完全に削り取った上で、再溶接(補修溶接)を実施する。

ブローホール・ピットのコントロールは、現象の背後にある物理的・化学的メカニズム(ガス溶解度と凝固速度の関係)を理解し、規格の数値を正しく読み解くことから始まる。勘と経験に頼るのではなく、JISやISOの物差しを正確に使いこなすことこそが、真の溶接施工エキスパートの条件である。

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