JIS Z 3106準拠:ロボット溶接における『溶接施工要領書(WPS)』の自動化システムへの適正化と妥当性確認

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JIS Z 3106準拠:ロボット溶接における『溶接施工要領書(WPS)』の自動化システムへの適正化と妥当性確認

溶接自動化の現場において、手動溶接の延長線上でWPS(Welding Procedure Specification:溶接施工要領書)を解釈し、ロボットティーチングを行っても高品質な量産は実現できない。JIS Z 3106(溶接施工確認試験)の要求事項を満足しつつ、ロボット特有の動特性(加速度、減速度、アークスタート・クレータ処理の挙動)を考慮したパラメータ変換を行わなければ、ブローホール、アンダーカット、ポロシティ、そして致命的な溶込み不良などの欠陥は防げない。

本稿では、JIS規格の要求事項をロボットのプログラムパラメータへ正確に落とし込む変換ルールと、量産移行前に行うべき溶接施工確認試験の評価スキームについて、冶金学的・実務的観点から徹底解説する。

1. 基礎知識:JIS Z 3106とロボット溶接WPSのメカニズム

1.1 WPSの基本概念とJIS Z 3106の位置づけ

WPSは、所定の品質を持つ溶接部を得るために必要な施工条件を規定した文書である。その根拠となるのがJIS Z 3106(鋼の溶接施工確認試験方法)であり、母材の材質、板厚、溶接継手形状、溶接方法、溶接材料の組み合わせごとに、規定された試験(引張試験、曲げ試験、マクロ組織試験など)を実施し、その妥当性を検証することが義務付けられている。

手動溶接では、資格を持った溶接士の技量(スキル)が施工のばらつきを吸収する余地があるが、ロボット溶接システムは「入力されたプログラム通りの入熱と軌跡」を忠実に再現する機械である。したがって、WPSで規定された数値がロボットコントローラーの指令値へ正確に変換されていない場合、全数不良の温床となる。

1.2 入熱量(Heat Input)と入熱速度の冶金学的関係

溶接部の機械的性質(引張強さ、靭性、硬さ)および冶金学的構造(HAZ:熱影響部の結晶粒粗大化、マルテンサイト変態など)を支配するのは単位長さあたりの入熱量 $H$ (kJ/mm) である。

JIS Z 3106に適合する入熱量は、以下の式で算出される。

$$H = \frac{60 \times E \times I}{1000 \times S}$$

  • $E$:アーク電圧 (V)
  • $I$:溶接電流 (A)
  • $S$:溶接速度 (cm/min または mm/s)

ロボット溶接において最も重要なのは、「WPS上の定常状態の電流・電圧・速度」だけでなく、ロボット特有の動的挙動における実効入熱の変動を制御することである。

2. 実践:WPSパラメータのロボットシステムへの変換ルール

WPSの仕様書(数値)を、各ロボットメーカー(ファナック、安川電機、OTC、パナソニックなど)のティーチングペンダントに入力する際の具体的な変換プロセスを解説する。

2.1 溶接条件の変換マトリクス(CO2/MAG溶接の例)

| パラメータ項目 | WPS上の規定値(例) | ロボットコントローラーへの入力値・設定事項 | 現場での留意点 |
| :— | :— | :— | :— |
| 溶接電流 ($I$) | $220 \text{ A} \pm 10\%$ | ワイヤ送給速度 (WFS: m/min) または電流値指令 | シナジー(協調)制御機能を用い、電圧との最適バランスを維持。 |
| アーク電圧 ($E$) | $24.0 \text{ V} \pm 2\text{ V}$ | アーク電圧調整値 / トリム値 | アーク長を一定に保つため、チップ・母材間距離 (CTWD) の変動に対する電圧補正を確認。 |
| 溶接速度 ($S$) | $45 \text{ cm/min} = 7.5 \text{ mm/s}$ | 速度指令 (ROBOPED/TOOL SPEED) | 減速・加速区間(コーナー部やアークスタート直後)での速度低下による過大入熱に注意。 |
| シールドガス流量 | $20 \text{ L/min}$ | 外部マスフローコントローラー / 電磁弁タイマー設定 | プリフロー(0.5〜1.0s)、ポストフロー(1.0〜3.0s)の厳守。 |
| ワイヤ突出し長さ (CTWD)| $15 \text{ mm} \pm 2\text{ mm}$ | ティーチング時のトーチ角度と高さの固定 | ジュール熱によるワイヤ予熱効果が変わるため、厳密な治具位置決めが必要。 |

2.2 ロボット特有のパラメータ補正(加速度とコーナー処理)

ロボットは直線からコーナーへ移行する際、軌跡精度を保つために自動的に減速・加速(CP制御:連続経路制御におけるオーバートラベル防止やスムージング機能)を行う。

  • 問題点: コーナー部でロボットの移動速度 $S$ が低下すると、計算上の入熱量 $H$ が局所的に増大し、母材の焼き入れ、溶け落ち、あるいは結晶粒粗大化による靭性低下を招く。
  • 対策:

1. コーナー部手前で意図的に溶接条件(電流・電圧)を低下させる「スローダウン制御」をプログラムに組み込む。
2. ロボットの加速度パラメータ(ACC/DEC)を最適化し、速度変動幅を最小限に抑える。

2.3 アークスタートおよびクレータ処理の最適化

JIS Z 3106の試験片採取において、ビードの始端部(スタート)と終端部(クレータ)は欠陥(ピット、ブローホール、クレータ亀裂)が発生しやすい。

  • スタート条件:
  • 初期条件(Initial Condition)として、スロープアップ時間を設定(例:0.3秒かけて定常電流へ移行)。
  • タッチスタート時のワイヤ焼付きを防ぐため、ワイヤ送給の逆転(リトラクト)や初期給電遅延を適切に設定。
  • クレータ条件:
  • クレータ処理(Crater Fill)は、電流を徐々に減衰させ(スロープダウン時間:0.5〜1.0s)、クレータ亀裂を完全に防止する。
  • ガスシールドのポストフローを十分に行い、凝固完了までの酸化を防ぐ。

3. 量産移行前の溶接施工確認試験と品質妥当性評価スキーム

WPSの自動化システムへの展開が完了したら、量産開始前にJIS Z 3106に基づく「溶接施工確認試験(PQR: Procedure Qualification Record の作成元となる試験)」を実施し、品質の妥当性を客観的に証明する。

3.1 試験片の製作手順

1. 母材の準備: 量産で使用する鋼材(例:SM490A, 590等)を用い、規定の板厚・開先形状で試験板を加工する。
2. ロボット自動溶接の実施: 作成したWPSプログラムを用いて、試験板を自動溶接する。この際、手動による補正や介入は一切行わない。
3. 非破壊検査 (NDT):

  • 放射線透過試験 (RT) または 超音波探傷試験 (UT) を実施し、内部欠陥(ブローホール、融合不良、割れ)がないことを確認する。
  • 浸透探傷試験 (PT) により、表面の開口欠陥(アンダーカット、ピット、表面割れ)を全数検査する。

3.2 破壊試験による評価項目と合否判定基準

非破壊検査をクリアした試験板から、JIS Z 3106に従い試験片を採取し、以下の破壊試験を実施する。

  • 引張試験: 継手引張強さが母材の規格最低引張強さ以上であること、または破断位置が母材部であり規定値を満たしていること。
  • 曲げ試験(表曲げ・裏曲げ・側面曲げ): 治具を用いた曲げ試験を行い、曲げ外側に幅 3 mm を超える割れその他の欠陥が生じないこと(健全な延性の確認)。
  • マクロ組織試験: 溶接断面を研磨・エッチング(ナイタール液等)し、顕微鏡または実体顕微鏡で観察する。
  • 完全な溶込み(ルート部までの到達)が確認できること。
  • 融合不良(Lack of Fusion)、スラッグ巻き込み、許容値を超えるアンダーカット・オーバーラップがないこと。
  • ビード外観の波目の均一性、脚長・喉厚の寸法が図面公差およびWPSの規定値内に入っていること。
  • 硬さ試験(必要に応じて): 溶接金属、HAZ、母材のビッカース硬さ(HV10またはHV5)を測定し、急冷による過度な硬化層(硬さ上限値、例えばHV350以下など)が形成されていないことを確認する。

3.3 変更管理(変数値の許容範囲:Essential Variables)の運用

JIS Z 3106および関連規格に基づき、一度確認されたWPSから以下のパラメータが変更される場合、再確認試験(再PQR)が必要となる。現場での勝手な変更を防ぐ管理体制が不可欠である。

  • 主要変数(Essential Variables):
  • 母材の鋼種変更(JIS規格の強度等級が変わる場合)。
  • 板厚の変更(規定の適用範囲を超える増減)。
  • 溶接方法の変更(例:GMAWからFCAWへの変更、あるいはシールドガスの種類変更:Ar+CO2系から純CO2への変更など)。
  • 入熱量の著しい変動(通常、確認試験時の入熱量から $\pm 10\%$ または $\pm 20\%$ を超える増減)。
  • ワイヤ銘柄の変更(AWS規格の分類が変わる場合)。

4. トラブルシューティング:ロボット溶接WPS適正化における現場の壁と打破策

4.1 現象:アーク切れ・ワイヤ先端のボール化によるスタート不良

  • 原因: 初期電流値が高すぎる、またはパワーソース(溶接電源)の初期条件設定とワイヤ送給のタイミングが同期していない。
  • 対策:
  • 電源側の初期ワイヤ送給速度を下げ、アーク発生の確実性を優先するプログラムに変更。
  • トーチのクリーニングサイクル(チップのスパッタ除去)の頻度を見直し、チップ内径の摩耗によるコンタクト不良を排除する。

4.2 現象:ビード外観の蛇行と溶込みの偏り

  • 原因: ロボットのティーチング軌跡が母材の開先センターから微小にズレている、または熱変形によるワークの歪みが進行している。
  • 対策:
  • アークセンサ(織り動作による電流変化を利用したシームトラッキング)またはタッチセンサ(溶接前のワイヤ先による位置補正)を導入し、リアルタイムでWPSのパスを補正するシステムを構築する。
  • 冶具のクランプ圧を強化し、溶接中の熱変形によるワークの浮き上がりを 1 mm 以下に抑制する。

4.3 現象:ピット・ブローホールの多発

  • 原因: シールドガス流量の不足、ノズル内のスパッタ堆積によるガス流の乱れ、または母材表面の油分・水分・錆。
  • 対策:
  • ガスチェッカーを用いて、トーチ先端での実効ガス流量が $20 \text{ L/min}$ を維持しているかを定期的(シフト毎)に測定。
  • ロボットプログラムに自動トーチクリーナーの動作を組み込み、30ショットごとにスパッタを清掃・防錆剤を塗布するルーティンを確立する。
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