放射線透過試験(RT)における「偽像」の識別テクニック:像質計選定から欠陥判定までの実務ガイド
放射線透過試験(RT)において、フィルムやデジタル検出器(CR/DR)上に現れた指示模様が「実欠陥(ブローホール、スラグ巻き込み、割れなど)」であるか、あるいは「偽像(アーティファクト、材料組織起因、表面状の不整)」であるかの識別は、構造物の合否を決定づける極めて重要な工程である。誤判定は、過剰な手戻り(健全部の無駄なハツリ補修)を招くか、あるいは重大な致命傷の看破(構造崩壊のリスク)に直結する。
本稿では、JISおよびISO規格に基づき、像質計の適正選定から幾何学的条件の整理、そして現場で頻発する偽像のメカニズムと識別テクニックを実務的視点から徹底解説する。
1. 基礎知識・原理:RTにおける像質と幾何学的不鮮明さ
放射線透過試験の品質は、「像質(感度と鮮明さ)」によって担保される。偽像の発生メカニズムや、それが欠陥とどう区別されるかを理解するためには、まず撮影の幾何学的基礎を押さえる必要がある。
1.1 幾何学的不鮮明さ($Ug$)のコントロール
撮影配置によって生じるボケ(幾何学的不鮮明さ $Ug$)は、欠陥の輪郭を曖昧にするだけでなく、微小な偽像を生み出す原因、あるいは偽像と実欠陥の判別を困難にする要因となる。
$$Ug = \frac{f \cdot t}{d}$$
- $f$:放射線源の焦点寸法(有効寸法) $[\mathrm{mm}]$
- $t$:試験部の厚さ(放射線源側の表面からフィルムまでの距離、またはきずまでの距離) $[\mathrm{mm}]$
- $d$:放射線源から試験部の表面までの距離(焦点-試験部間距離) $[\mathrm{mm}]$
JIS Z 3104(鋼溶接部の放射線透過試験方法)およびASME Sec. Vにおいて、$Ug$ の最大許容値は以下のように厳しく制限されている。
| 透視厚さ $t$ (mm) | JIS Z 3104 の最大 $Ug$ (mm) |
|---|---|
| $t \le 50$ | 0.5 以下 |
| $50 < t \le 85$ | 0.7 以下 |
| $85 < t \le 100$ | 1.0 以下 |
| $t > 100$ | 1.5 以下 |
*実務上の注意*:$Ug$ が大きすぎると、機械加工痕や裏波形状のエッジがダレて表示され、これを体積欠陥と誤認する原因となる。
2. 像質計(IQC/PEN)の選定と実務基準
像質読取の成否は、適切な像質計(Image Quality Indicator)の選定から始まる。JIS Z 3300 や JIS Z 3104、ISO 19232 に準拠した選定が必須である。
2.1 像質計の種類と適用
1. 線型像質計(JIS/ISO型):細い金属線が並んだもの。識別できた最小線の径で感度を評価する。
2. 穴型像質計(ASTM/ASME型):厚さの異なるプレートに直径の異なる穴があけられているもの(T, 2T, 4Tの穴)。
2.2 母材厚さに対する像質計の選定マトリックス(JIS Z 3104 抜粋)
試験部厚さ(母材厚さ+余盛)に対し、使用すべき像質計の線径(または穴サイズ)および規定される透視写真の等級(A級・B級)を満足しなければならない。
| 母材厚さ $T$ (mm) | A級試験 像質番号(JIS線型) | B級試験 像質番号(JIS線型) | 最小識別線径の目安(mm) |
|---|---|---|---|
| $T \le 5$ | 15 または 16 | 13 または 14 | 0.10 〜 0.16 |
| $5 < T \le 8$ | 14 または 15 | 12 または 13 | 0.13 〜 0.20 |
| $8 < T \le 12$ | 13 または 14 | 11 または 12 | 0.16 〜 0.25 |
| $12 < T \le 15$ | 12 または 13 | 10 または 11 | 0.20 〜 0.32 |
| $15 < T \le 25$ | 11 または 12 | 9 または 10 | 0.25 〜 0.40 |
| $25 < T \le 35$ | 10 または 11 | 8 または 9 | 0.32 〜 0.50 |
| $35 < T \le 50$ | 9 または 10 | 7 または 8 | 0.40 〜 0.63 |
*実務的ポイント*:像質計の置かれる位置は原則として「放射線源側の溶接部から離れた母材部、または溶接ビード上(バックグラウンド密度が同等の位置)」とし、シャム(スペーサ)を挟む場合は材質の均一性に十分注意する。像質計自体の像がシャープに見えていない場合、撮影系全体がボケているため、そのフィルム全体の欠陥判定(特に微小なきず)の信頼性は失われる。
3. 現場での実践:偽像のメカニズムと識別テクニック
RT画像における「偽像(Artifact)」は、溶接施工や現像処理、取扱いの各段階で発生する。検査員は、以下の分類に従ってその発生源を特定し、実欠陥と厳密に区別しなければならない。
3.1 表面形状・構造起因の偽像
# ① 溶接ビードの形状起因(裏波の凹凸・スラップマーク)
- 現象:ビードの幅急変部、または裏波溶接の過剰な凹凸やルート切れの影が、内部の割れや融合不良のように直線状または黒い筋として写る。
- 識別テクニック:
- ステレオ撮影(立体視)または傾斜撮影:実欠陥であれば放射線の入射角変更に伴い位置が変化する(視差の原理)。表面形状に起因するものは、表面マーカーやエッジとの位置関係が完全に一致する。
- 表面目視検査(VT)との突合:必ず実物のビード高さ・幅を溶接ゲージで測定し、RT画像の幅と一致しているか確認する。
# ② スパッタ、アークストライク、サンディングマーク
- 現象:母材表面に付着したスパッタや、グラインダーによる削り跡(サンディングマーク)が、密度差を生み、ブローホールや割れに似た像を形成する。
- 識別テクニック:
- サンディングマークは、多くの場合「滑らかなグラデーションを持つ幅広い輝度変化(黒化度の緩やかな変化)」を示す。尖鋭な先端を持つきず(割れ)とは輪郭のシャープさが異なる。
- 表面を清掃・再グラインドして再撮影し、像が消えれば表面起因の偽像と即座に断定できる。
3.2 現像・ハンドリング・化学的要因の偽像
# ③ 爪折れ・指紋・静電気マーク(電気的放電マーク)
- 現象:
- 静電気マーク:乾燥した環境でフィルムを急激に引き抜いた際、樹枝状(ツリー状)または綿毛状の黒い黒化模様が発生する。
- 爪折れ(半月状のキズ):フィルムを曲げた際の応力により、黒い三日月状の斑点が生じる。
- 識別テクニック:
- これらは溶接線の方向性や母材の形状を一切無視してランダムに現れるため、構造上の欠陥とは容易に区別できる。ただし、溶接部の上に重なった場合は見落としや誤認の危険があるため、マニュアル現像・自動現像機のローラー点検や帯電防止策が必須である。
# ④ 定着不良・ウォータースポット・現像ムラ
- 現象:定着液の劣化や乾燥時の水滴残りにより、部分的な濃度異常(シミやムラ)が生じる。
- 識別テクニック:
- 溶接線の外側(母材部やフィルムの周辺部)にも同様の模様が広がっているかを確認する。局部的に溶接線上にだけピンポイントで発生することは統計的に稀である。
3.3 材料組織・冶金学的要因の偽像
# ⑤ 偏析(マクロセグリゲーション)、介在物の帯状分布
- 現象:特に厚肉鋼板やクラッド鋼、特殊合金(高合金鋼、ニッケル基合金)において、製造時の成分偏析(Mn, P, Sなどの偏り)や圧延方向に平行な微小介在物の集合体が、スラグ巻き込みや融合不良に酷似した平行な線状・帯状の指示を与える。
- 識別テクニック:
- 方向性:圧延方向や鍛造フローラインに完全に平行である。溶接の進行方向(ビード形状)とは無関係に母材部まで連続していることが多い。
- 母材部への連続性:溶接熱影響部(HAZ)や溶け込み境界を越えて、母材の奥深くへと途切れることなく続いている場合、それは溶接欠陥ではなく「母材の偏析・スチールライニングの組織不均一」である。
4. JIS/ISO規格・数値データ・評価方法
欠陥と判定された場合、JIS Z 3104に則り、その寸法と種類に応じた「欠陥等級」の合否判定を下さなければならない。
4.1 欠陥の分類(JIS Z 3104)
- 第1種欠陥:球状あな(ブローホール)、比較的孤立したす巣。
- 第2種欠陥:棒状あな、すき間状の欠陥(ルート間隔不良など)。
- 第3種欠陥:スラグ巻き込み、タングステン巻き込みなどの不純物。
- 第4種欠陥:きず(割れ)、融合不良、完全溶け込み不足などの致命的欠陥。
4.2 像読取・欠陥評価の基準値と判定手順
1. 濃度の測定:透過写真の溶接部における光学濃度 $D$ は、一般に $1.5 \le D \le 4.0$ の範囲(デジタルラジオグラフィの場合は相当する輝度/SNR値)に収まっていなければならない。濃度が低すぎる($D < 1.0$)場合、微小欠陥や偽像の識別力が著しく低下する。 2. 欠陥の長さ・分布の評価:
- 母材厚さ $t$ を基準とした単位長さ(通常 $100\mathrm{mm}$、または溶接線の長さに応じた区分)における、欠陥の総長さや点数をカウントする。
- 第4種欠陥(割れ・融合不良等)の許容値:「いかなる長さであっても存在してはならない(ゼロ・トランスグレッション)」。すなわち、第4種欠陥が検出された時点で、偽像でないことが確実であれば、その溶接継手は不合格(即座に補修)となる。
4.3 偽像疑い発生時の「実務的検証フロー」
現場で「これは第4種欠陥(割れ)か、それとも偽像(偏析または表面キズ)か」と割れた場合のステップ:
[RT画像上の異常指示の発見]
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[Step 1: 幾何学的・位置的検証]
- 像質計のボケ(Ug)は許容内か?
- 像の位置はビード表面、ルート、母材のどこか?
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[Step 2: 補完試験の実施]
- 照射方向を少し変えた「傾斜撮影(斜め透過)」を実施。
- 指示が移動するか? (Yes -> 実欠陥の可能性 / No -> 表面・内部固定物)
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[Step 3: 表面および他手法による確認]
- 表面起因(スパッタ、アンダーカット等)なら VT / PT(浸透探傷試験)を実施。
- 母材偏析なら UT(超音波探傷試験)による反射波の特性(波形パターン)を確認。
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[Step 4: 最終判定]
- 偽像と確定:記録に残し、合否判定から除外。
- 実欠陥と確定:JIS規格に基づき寸法測定・等級判定、補修指示。
高度な施工管理および品質保証体制においては、単一の非破壊検査手法(RTのみ)に依存せず、上記のようなマルチモーダルな検証(RT + UT/PTの組み合わせ)を通じて、偽像による誤った不合格判定および重大欠陥の看過を完全に排除することが求められる。