JIS Z 3104に基づく放射線透過試験:融合不良とスラグ巻き込みの識別・判定技術完全ガイド
放射線透過試験(RT:Radiographic Testing)の読影において、最も高度な技量と経験が要求されるのが、「融合不良(Lack of Fusion)」と「スラグ巻き込み(Slag Inclusion)」の識別である。両者はともに線状または細長いきずとしてフィルム(またはデジタル検出器)上に現れるが、その冶金学的発生メカニズムと構造物への力学リスクは全く異なる。
JIS Z 3104(鋼溶接継手の放射線透過試験方法及び透過写真の等級分類方法)に基づく適確な欠陥等級判定を行うため、像質計の選定から、冶金学的背景、透過写真上の微視的特徴、そして合否判定の実務基準までを網羅的に解説する。
1. 像質計の選定と試験条件の基礎
信頼性の高い読影を行うためには、適切な像質(感度)の担保が不可欠である。JIS Z 3104に基づき、母材厚さに応じた像質計の選定と幾何学的不鮮明さの制御を行う。
像質計(WIRE IQI / HOLE IQI)の選定基準
像質計は、透視度(識別できる最小の線径または穴径)を評価するために用いる。一般的に鋼の溶接部では線状像質計(JIS Z 4304)が多用される。
- 配置位置: 原則として母材の表面(線源側)、かつ透過厚さが最大となる箇所、またはそれに準ずる溶接部中央および熱影響部(HAZ)を跨ぐように配置する。
- 識別要件: 規定された番号の線が、透過写真上でシャープに識別できなければならない。識別不可能な場合は試験やり直しとなる。
幾何学的不鮮明さ($Ug$)の管理
微小な融合不良を検出するためには、像のボケ(幾何学的不鮮明さ $Ug$)を厳格に制限する必要がある。
$$Ug = \frac{f \cdot d}{s}$$
- $f$: 線源の大きさ(焦点サイズ) [mm]
- $d$: 溶接部表面からフィルムまでの距離(きずからフィルムまでの距離) [mm]
- $s$: 線源から溶接部表面までの距離(照射距離) [mm]
JIS Z 3104における規定値(抜粋):
- クラスA(通常級):$Ug \le 0.20 \text{ mm} \sim 0.70 \text{ mm}$ (板厚による)
- クラスB(高級):$Ug \le 0.10 \text{ mm} \sim 0.30 \text{ mm}$ (より厳格な幾何学的不鮮明さの抑制が求められ、微細な融合不良の検出に寄与する)
2. 冶金学的メカニズムと透過写真上の像的特徴の対比
融合不良とスラグ巻き込みを確実に見分けるためには、それらが形成されるプロセス(冶金学的メカニズム)と、X線/ガンマ線が物質を透過する際の物理的挙動を理解しなければならない。
2.1 融合不良(Lack of Fusion)
- 発生メカニズム:
- 母材と溶着金属、またはパス間(多層盛りの層間)において、金属が完全に溶け合わずに隙間(あるいは酸化膜の挟まり)が生じた状態。
- 入熱不足、トーチ角度の不良、グルーブ(開先)の清浄度不良(スケールやサビの残留)、母材の急冷などが主因。
- 特徴: 厚みを持たない「面状」のきずであり、開先面や層間に沿って鋭い刃物状の隙間を形成する。
- 透過写真上の像的特徴:
- 形状: 極めて細く、直線的、またはギザギザとした線状(あるいは微小な帯状)。
- 方向性: 開先面(ベベル角)の角度や溶接進行方向(パスのライン)に完全に一致して現れる。
- 濃度変化: 幅が極めて狭いため、線状の微弱な黒い影(高濃度部)として現れる。端部が極めてシャープ(切れ味が鋭い)。
- 立体感: 透過方向と欠陥の平面が一致したときのみ明瞭な線となり、角度が外れると消えるかぼやけた影になる。
2.2 スラグ巻き込み(Slag Inclusion)
- 発生メカニズム:
- 被覆アーク溶接(SMAW)のスラグや、フラッグ入りワイヤ(FCAW)のスラグ、あるいはTIG溶接時のタングステンや酸化物の巻き込みが、凝固前の溶融金属内に取り残されたもの。
- 前パスのスラグ除去不良、過大・過小な電流によるアンダカット部へのスラグの噛み込みが主因。
- 特徴: 金属組織内に異物(非金属介在物)が「塊状」または「粒状」として包埋される。
- 透過写真上の像的特徴:
- 形状: 孤立した点状、楕円状、あるいはスラグの流動に伴う不規則な形状(虫食い状、あるいは短い棒状)。
- 方向性: 開先面に必ずしも一致せず、溶融プールの流れに沿ってランダムに点在、または断続的に並ぶ。
- 濃度変化: 密度が鉄(スチール)よりも低い(スラグの比重は約2.6〜3.0に対し鉄は約7.85)ため、X線を比較的よく透過し、周囲の母材・溶接金属よりも黒く(濃度高く)写る。ただし、融合不良に比べて輪郭がやや丸みを帯びる(ぼやけたエッジ)。
3. 【識別決定版】融合不良 vs スラグ巻き込み 比較マトリクス
実務の読影現場で迷った際、以下のマトリクスに基づいて多角的に判断する。
| 評価項目 | 融合不良 (Lack of Fusion) | スラグ巻き込み (Slag Inclusion) |
|---|---|---|
| 冶金学的本質 | 金属間の未結合(隙間・酸化膜層) | 溶融金属内への異物(非金属)の混入 |
| 欠陥の分類 (JIS Z 3104) | 第2種(すじ状欠陥、部分的なもの) | 第1種(球状あき及び点状の散在・集積欠陥) / 第2種 |
| 透過写真の輪郭・エッジ | 非常にシャープ(切れ味鋭い直線・鋭角) | やや丸みがある(滑らかな曲線、楕円状) |
| 存在位置の規則性 | 開先面、層間に完全一致(幾何学的位置) | ランダム・散在(溶融池の流動に依存) |
| 長さと幅のアスペクト比 | $L/W \gg 1$ (非常に長く細いすじ状) | 比較的短く、アスペクト比は低い(点状〜楕円) |
| 力学リスク(疲労強度) | 極めて高(先端が鋭利なため応力集中係数が最大級) | 中(形状が丸みを帯びるため融合不良ほど致命的ではない) |
4. JIS Z 3104に基づく欠陥等級分類と判定実務
放射線透過写真の等級分類(1級〜4級)は、母材厚さ $t$ および検出された欠陥の大きさと分布に基づいて行う。
4.1 JIS Z 3104の欠陥分類コード
- 第1種: 球状あき(ブローホール等)および点状の散在・集積欠陥
- 第2種: すじ状欠陥(融合不良、不完全なルート溶け込み、スラグ巻き込み等のうち細長いもの)
- 第3種: き裂、タングステン巻き込み、その他の有害な欠陥
4.2 読取器(シャウカステン)と測定環境の要件
- 輝度: 読取部の照度は十分に確保し、フィルム濃度(光学濃度 $D$)の測定範囲(一般に $D = 1.5 \sim 4.0$)に適合した高輝度シャウカステンを使用する。
- 測定具: 0.1 mm単位で計測可能な拡大ルーペ(スケール付き)を使用し、すじ状欠陥の「長さ」と「幅」、および母材厚さに対する比率を算出する。
4.3 判定基準の運用(第2種欠陥の評価)
融合不良および長手方向のスラグ巻き込みは、主に第2種(すじ状欠陥)として評価される。
1. 許容される長さの制限:
- 等級(1級、2級、3級、4級)ごとに、単位長さ(通常は母材厚さの10倍、または特定の基準長さ)あたりに許容されるすじ状欠陥の総長さ、および個々の最大長さが規定されている。
- 1級: 非常に厳格。微小な融合不良も原則として不合格(または極めて短い許容値)。
- 2級・3級: 許容長さに応じて合否が分かれる。
2. 連続性・重なりの評価:
- 同一線上にある複数の欠陥について、その間隔が一定の許容値以内である場合、それらを「1つの連続した欠陥」として合算して長さを評価する(スラグ巻き込みの断続的発生時によく適用される)。
- 融合不良は開先全長にわたって連続して発生することがあるため、この「連続長さ制限」に抵触して不合格になるケースが多い。
5. 現場のトラブルシューティングと品質改善アクション
RT検査で融合不良やスラグ巻き込みが検出された場合、単に「はつり補修(ガウジングによる欠陥除去と再溶接)」を行うだけでなく、発生原因を特定し、溶接施工要領書(WPS)の改訂や現場環境の改善につなげなければならない。
融合不良の対策(WPS・施工上のフィードバック)
- 入熱量の見直し: 電圧・電流を上げ、溶け込み深さを十分に確保する。
- 開先加工・清掃の徹底: 開先面の錆、ミルスケール、油分をグラインダーやワイヤーブラシで完全に除去する(酸化膜の巻き込み防止)。
- トーチ・アーク角度の最適化: 多層盛りの際、前パスのビード形状が極端な凹凸(アンダカット状)にならないようにパス間清掃(チッピング・グラインディング)を確実に行う。
スラグ巻き込みの対策(WPS・施工上のフィードバック)
- スラグ除去の徹底: 被覆アーク溶接(SMAW)やFCAWにおいて、各パス間のスラグを完全に除去してから次パスを積層する。
- ウィービング・走行速度の調整: 溶融金属がスラグを追い越して巻き込まない適切な溶接速度とビード幅に設定する。
- シールドガスの確認: 適切なシールドを維持し、酸化を防止する。