UTレベル2試験におけるDAC曲線とTCG補正の理論的差異と実務上の使い分け
非破壊検査における超音波探傷試験(UT)のJIS Z 3060(溶接部の超音波探傷試験方法)やISO 17640において、きずの寸法評価(特に高さや等価きず長さ)の精度を担保するためには、音圧の距離による減衰を補正する技術が不可欠である。この音圧補正の主要な手法としてDAC曲線(Distance Amplitude Correction Curve:距離振幅特性曲線)とTCG補正(Time Corrected Gain / Time Controlled Gain:距離振幅補正 / 時間制御感度補正)が存在する。
両者は「音波の伝搬距離(時間)に伴う減衰を補正する」という目的において同一であるが、超音波探傷器の内部処理メカニズム、エコー高さ評価のアプローチ、および適用される規格の思想において根本的な差異がある。本稿では、JIS/ISO規格、冶金学的・音響学的メカニズム、および実務的な施工管理・図面審査の視点から、両者の理論的差異と適切な使い分けを徹底解説する。
1. 基礎知識・原理:DACとTCGの定義とメカニズム
超音波は、試験体内部を伝搬する過程において、ビームの拡散(幾何学的減衰)、材料組織による散乱(構造減衰)、および吸収(熱弾性減衰)により、距離の二乗(厳密には複雑な減衰係数)に比例して音圧が低下する。同一サイズであっても、近距離にあるきずと遠距離にあるきずでは、反射エコーの高さ(振幅)が異なる。これを補正するのがDACとTCGである。
DAC曲線(Distance Amplitude Correction Curve)の原理
- 定義: 探傷感度基準穴(通常はFBH:Flat Bottom Hole、またはSDH:Side Drilled Hole)からの反射エコー高さを、音程(伝搬距離または深さ)の関数として結んだ曲線群をCRT画面上(またはデジタルディスプレイ上)に描き、評価基準とする手法。
- メカニズム: ゲイン(アンプの増幅度)は一定のまま維持し、画面上に描かれた曲線(基準DAC、およびそれを基準とした許容レベルを示す-6dB、-12dBなどの判定曲線)に対して、きずエコーの高さを視覚的に比較・評価する。
- 特徴: 画面上のすべての位置できずの「等価径」を直感的に読み取ることができるが、遠距離のエコーは視覚的に小さく表示されるため、微小欠陥の波形形状認識が困難になる場合がある。
TCG補正(Time Corrected Gain)の原理
- 定義: 超音波の伝搬時間(距離)の経過に応じて、受信アンプのゲインをリアルタイムに自動調整(時間とともに増幅度を増加)させ、異なる伝搬距離にある同一サイズの反射源からのエコー高さが、画面上で常に一定の高さ(フルスケールの一定割合)になるよう補正する手法。
- メカニズム: 距離に応じたタイムゲートの進行に合わせてゲインを動的に変化させる(タイムバリエリアブルゲイン:TVGとも呼ばれる)。
- 特徴: 画面上のどの深さにきずがあっても、基準感度エコーの高さが同一になるため、遠距離のきずであっても近距離と同等の分解能と振幅で波形観察および評価が可能となる。
2. 理論的差異の比較マトリクス
| 評価項目 | DAC曲線(距離振幅特性曲線) | TCG補正(時間制御感度補正) |
|---|---|---|
| ゲイン(増幅度)の扱い | 固定(探傷中は不変) | 可変(距離に応じて自動変動) |
| 画面上の基準エコー表示 | 距離に応じてエコー高さが低下する曲線を描く | すべての距離でエコー高さが一定(フラット)になる |
| きず高さ(振幅)の読取 | 曲線に対する相対値(例:DAC-6dB)として読み取る | 画面上の絶対高さ(または設定基準との差)として直接読み取る |
| S/N比(遠距離) | 遠距離ではアンプのノイズフロアに埋もれやすい | 遠距離のゲインを上げるため、電気ノイズも同時に増幅される |
| 動的レンジの活用 | 画面全体でダイナミックレンジを共有するため、遠距離の微小欠陥の評価が困難 | 遠距離の感度が底上げされるため、微小欠陥の検出感度が向上する |
| 準拠規格の傾向 | JIS(JIS Z 3060など)で伝統的・標準的に採用 | ASMEコード(BPVC Sec.V)、ISO 17640等で広く推奨・必須化 |
3. JIS/ISO規格における規定と適用基準
非破壊検査技術者として遵守すべき規格において、DACとTCGはどのように位置づけられているかを整理する。
JIS Z 3060(溶接部の超音波探傷試験方法)
- JIS規格では、主にDAC法が標準的な感度設定および評価方法として記述されてきた。
- 標準対比試験片(STB-A、STB-Gなど)や、実体試験片に加工したSDH(側孔)を用いて、探傷範囲全域にわたる距離振幅補正曲線を作成する。
- 許容基準は、最高感度(DAC曲線またはその下方の評価レベル線、例:-6dB、-12dB)を基準として、きずエコー高さおよび指示長さを評価する。
ISO 17640 / ISO 11666(溶接部の超音波探傷 – レベル別評価)
- 欧州規格および国際規格(ISO)においては、TCG補正(またはこれと同等の距離感度修正)が強く推奨、あるいは必須とされることが多い。
- ISO 11666(受入レベルによる評価)では、きずの高さ・長さを正確にサイジング(寸法測定)することが求められるため、距離による感度のバラつきを排除できるTCG(またはDACによる正確な数学的補正)を用いた等価サンプリングが前提となる。
4. 現場での実践・試験体条件に応じた設定手順とトラブル対策
現場の施工管理や図面審査において、試験体(母材)の材質、厚み、音響特性に応じた適切な設定を行わなければ、重大な見落とし(検出漏れ)や過剰検出(False Call)を引き起こす。
実務におけるDAC作成のステップ(JIS準拠)
1. 探傷器・探触子の選定: 周波数(通常2MHz or 5MHz)、振動子サイズ(10×10mmなど)、屈折角(45°、60°、70°)を選定し、公称特性を確認する。
2. 対比試験片の選定: 試験体と同等音速・同等減衰特性を持つ対比試験片(SDHまたはFBHを有する)を使用する。
3. 基準点(ポイント)の打刻:
- 薄板(t < 25mm):2〜3点(例:1/4t, 1/2t, 3/4t または 1t)
- 厚板(t ≧ 50mm以上、マルチレッグ含む):少なくとも3点以上、最大音パスマークまでカバーするポイントでエコー高さを取得する。
4. 曲線の描画: プロットされた点を滑らかな曲線で結び、基準DAC(通常80%FSHなど)を設定する。
減衰特性と実務上のトラブル対策
# トラブル1:粗粒材(オーステナイト系ステンレス鋼や高ニッケル合金)における減衰
- メカニズム: オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304, SUS316等)や鋳鋼などの粗粒材では、結晶粒界での超音波の散乱(Rayleigh散乱から確率的散乱)が激しく、距離に対する音圧減衰が非常に大きくなる。
- 対策:
- 低周波数(2MHzまたは1MHz)の探触子を採用する。
- 縦波偏波探触子(LL波探触子)や斜角探傷における分散抑制を検討する。
- DAC/TCGの設定: 減衰係数($\alpha$ [dB/mm])を実測し、JIS Z 3060の補正規定に基づき、材料固有の減衰補正(Transfer Correctionなど)を必ず実施する。TCGを用いる場合、遠距離のゲインアップに伴い構造ノイズ(グラス・エコー)も増幅されるため、S/N比(Signal-to-Noise Ratio)が低下する限界点(通常S/N < 6dBとなる距離)を把握し、探傷範囲を制限する。
# トラブル2:厚肉溶接部(t > 100mm)におけるマルチレッグ探傷時の感度乖離
- メカニズム: 多パス溶接(Multi-pass weld)や極厚板の検査では、1レッグ、2レッグと音パスの折返し(跳ね返り)が発生する。表面反射や底面反射を経由するたびにモード変換やエネルギー損失が発生するため、単純な1次直線の延長線上でのDAC/TCGでは誤差が生じる。
- 対策:
- 探傷範囲全域をカバーするため、複数の深度(例:25mm, 50mm, 100mm, 150mm, 200mm)でマルチポイントによるTCG/DACプロットを行う。
- 継手部全体の溶け込み不良や高温割れを確実に捉えるため、斜角探傷だけでなくタンデム探傷やTOFD法(Time of Flight Diffraction)の併用を審査・計画段階で義務付ける。
5. 検査報告書作成時の留意点と品質保証(QA/QC)上の注意点
施工管理の現場において、非破壊検査報告書の審査は、プラントや構造物の健全性を担保する最後の砦である。報告書不備による手戻りを防ぐため、以下の項目を厳格に管理・記載する必要がある。
報告書(UTデータシート)への必須記載事項
1. 感度設定方法の明記: 「DAC法」または「TCG法」のどちらを用いたかを明記する。
2. 使用した対比試験片のトレーサビリティ:
- 試験片の材質、管理番号、較正有効期限(校正証明書の有無)。
- 人口きずの形状(SDH直径 $2.0\text{mm}$、FBH直径等)と深さ位置。
3. 初期ゲインおよび補正値:
- 基本ゲイン(Reference Gain: $G_r$) [dB]
- 追加ゲイン(Scanning Gain: $G_s$) [dB] (例:$G_s = G_r + 6\text{dB}$ など、走査感度が明確に追跡できるようにする)
4. 減衰補正値(Transfer Correction)の適用有無:
- 探傷面(母材)と対比試験片の表面状態・材質差に起因する伝達損失補正値($\Delta G$ [dB])が適切に算入されているか。
図面審査および第三者監査の視点(QA/QCエンジニアのチェックポイント)
- 規格要求事項との整合性: 発注仕様書(Client Specification)や施工規格(ASME Sec.VIII Div.1, JIS B 8249, API 650など)が、DACを求めているのかTCGを求めているのかの確認。例えば、ASMEコードではTCG(またはDAC)による較正が義務付けられており、スクリーンの高さ設定範囲(20%〜100% FSH)やゲインの直線性(Linearity)の定期点検記録が監査対象となる。
- オペレータの技量資格: JNDI(日本非破壊検査協会)UTレベル2、またはISO 9712 UT Level 2以上の有資格者が設定・実施していることの裏付け。
6. まとめ(実務運用の最適解)
DAC曲線とTCG補正は、超音波探傷における「距離による減衰の補正」という共通の目的を持ちながらも、「視覚的な相対評価(DAC)」と「動的な絶対評価(TCG)」という本質的な違いを持つ。
- JIS主体の一般構造物・圧力容器(比較的薄板〜中厚板): 従来の運用実績、判定の直感性、および規格適合性の観点からDAC法が有効かつ確実である。
- 国際規格(ISO/ASME)準拠、厚肉材、あるいは自動探傷(PAUT/TOFD等): 距離によらない均一な検出感度と厳密なサイジング(寸法測定)が要求されるため、TCG補正(またはデジタル処理による同等補正)を採用すべきである。
施工管理エンジニアおよび品質保証担当者は、対象とする構造物の規格要求、材料の音響特性(減衰・散乱)、および検査の目的に応じて、両者のメカニズムを正しく理解し、適切な感度設定手法を選定・担保しなければならない。