NDIレベル2試験における溶接欠陥の幾何学的判定アルゴリズム:RT・UT波形解析の極意
日本非破壊検査協会(JSNDI)が実施するJIS Z 2305に基づく非破壊試験技術者レベル2(ISO 9712準拠)の試験では、単なる知識の暗記ではなく、実務における高度な「判定能力」が問われる。特に放射線透過試験(RT)のフィルム像や超音波探傷試験(UT)のエコー波形から、溶接欠陥の種類(ブローホール、スラグ巻き込み、溶け込み不良など)を幾何学的特徴に基づいて正確に識別するスキルは、合否を分ける最大の難所である。
本稿では、冶金学的発生メカニズムと音響・光学特性の裏付けに基づき、RTフィルムおよびUTエコー波形から欠陥を特定するための幾何学的判定アルゴリズムを徹底解説する。
1. 溶接欠陥の冶金学的発生メカニズムと幾何学的特徴の基礎
非破壊検査で検出される溶接欠陥は、その多くが溶接施工上のパラメータ(電流・電圧・速度・開先形状・シールドガスなど)の不適切さや、母材・溶接材料の冶金学的特性に起因して発生する。それぞれの欠陥が持つ物理的形状と、それが非破壊試験においてどのように現れるかの相関を把握することが判定の第一歩となる。
1.1 ブローホール(Blowhole / Porosity)
- 発生メカニズム: 溶融金属中の過飽和ガス(水素、一酸化炭素、窒素など)が凝固過程で溶解度低下に伴い外部に排出しきれず、内部に閉じ込められて発生する。シールド不良、母材の錆や油分、吸湿した溶接材料が主な原因。
- 幾何学的特徴:
- 形状: ほぼ完全な球形、または進行方向にわずかに伸びた楕円体。
- 分布: 単発(孤立)、連なり状(ピットチェーン)、あるいは全面に分散。鋭敏な角を持たない。
1.2 スラグ巻き込み(Slag Inclusion)
- 発生メカニズム: 被覆アーク溶接やフラックス入りワイヤを用いた溶接において、スラグの浮上分離不良、多層盛溶接時の層間清掃不良、過度に深い開先や狭開先によるスラグの噛み込みによって発生する。
- 幾何学的特徴:
- 形状: 不規則な多角形、または細長い棒状・線状。鋭利な端部を持つことがあるが、気泡ほど滑らかではない。
- 分布: 溶け込み境界(融合線)に沿って、または多層盛りの境界に平行に存在。
1.3 溶け込み不良(Incomplete Penetration)および 融け不良(Incomplete Fusion)
- 発生メカニズム:
- 溶け込み不良: 開先根部(ルート部)まで完全に溶融金属が達していない状態。入熱不足、トーチ/電極の角度不良、ルートギャップの狭小化が原因。
- 融け不良: 溶け込み不良が母材とビードの間、または多層盛りのパス間で発生したもの。
- 幾何学的特徴:
- 形状: 厚さ方向に非常に薄く、長さ方向または深さ方向へ鋭く広がる「平面状(二维的)欠陥」。先端がクラック状に尖っているため、応力集中係数が極めて高い。
2. 放射線透過試験(RT)における幾何学的判定アルゴリズム
RTフィルム上の影は、欠陥の「投影図」である。撮影時の幾何不鮮明さ(ペナンブラ効果)や放射線の方向性を考慮し、透過像の濃淡変化から欠陥を立体的に再構築する。
2.1 形状解析アルゴリズム(RT編)
[RTフィルム上の像の確認]
┣━ 形状が「円形・楕円形」で、輪郭が滑らかかつシャープか?
│ ┣━ YES ──> 【ブローホール】(単発 or 巣状)
│ ┗━ NO ──> 次の判定へ
┣━ 形状が「不規則・線状・棒状」で、輪郭に方向性があるか?
│ ┣━ 溶け込み線(開先端)に平行に連続/断続 ──> 【スラグ巻き込み】
│ ┗━ 非常に細い直線状で、端部が極めて鋭い ──> 【ルート間の溶け込み不良】
┗━ 全体的に黒化度が均一ではなく、虫食い状のモヤか?
┗━ 【ピロリティックポロシティ(分散ブローホール)】
2.2 実務上の判別のコツと数値基準
- ブローホールの判別: フィルム上で周囲より黒い(透過率が高い=肉厚が薄い/密度が低い)スポットとして現れる。JIS Z 3104(鋼溶接継手の放射線透過試験方法)の欠陥分類では「点状欠陥(丸みのある欠陥:クラス1〜4)」に該当する。直径が小さくても、密集度が高いものは構造上リスクとなるため、母材厚さに対する投影面積率で評価する。
- スラグ巻き込みとブローホールの識別: どちらも影としては黒いが、スラグは「角張っている」「線状に流れている」点、ブローホールは「等方的な円形」である点で区別する。
- 溶け込み不良の識別: 継手の中央部(ルート部)に、板厚方向に沿ったシャープな一本の黒い直線として現れる。開先加工の不備や裏波形成失敗を伴うため、ビード幅や裏波の有無の視覚情報と突合せることで確度が飛躍的に上がる。
3. 超音波探傷試験(UT)におけるエコー波形解析アルゴリズム
JIS Z 3060(鋼溶接部の超音波探傷試験方法)に準拠したUTにおいて、レベル2技術者に求められるのは、CRT(またはデジタル画面)上のエコー高さ(振幅)とプローブの動き(走査)から、欠陥の「種類」「大きさ」「位置」を三次元的に特定することである。
3.1 形状解析アルゴリズム(UT波形・挙動解析)
[エコーの検出と最大化]
┣━ エコーの立ち上がりが「鋭い(シャープ)」か、あるいは「鈍い(なだらか)」か?
│ ┣━ 鋭い立ち上がり、高振幅、プローブを前後に動かしたときの指示長さ(エコー高さ変動範囲)が狭い
│ │ ┗━ 幾何学的特徴:【平面状欠陥】(溶け込み不良、融け不良、き裂)の可能性大
│ ┗━ 立ち上がりがなだらか、中〜低振幅、エコーが広範囲にパラパラと出る
│ ┗━ 幾何学的特徴:【体積状欠陥】(ブローホール群、スラグ巻き込み)の可能性大
┣━ 探傷面に対する傾き・位置の特定(ピークの挙動)
│ ┣━ ルート下端(V形開先底部)で固定された位置から高感度エコーが出る ──> 【ルート間の溶け込み不良】
│ ┣━ 融合線(斜め)に沿って段階的、または連続的にエコーが追従する ──> 【融合不良 / スラグ巻き込み】
│ ┗━ 母材内部でランダムに出現する ──> 【分散ブローホール】
3.2 欠陥種別のエコー挙動詳細(冶金・音響学的根拠)
欠陥種別
超音波に対する反射特性
探傷面走査時のエコー挙動 (DAC/DACカーブ基準)
判定上の決定打
ブローホール
球面反射体(点音源的)。超音波を全方向に散乱するため、指向性反射が弱い。
プローブを回転させてもエコー高さがあまり変わらず、狭い範囲で点々と検出される。高振幅になりにくい。
複数個の独立した低〜中エコーが密集。「ザー」という連続しない散乱波。
スラグ巻き込み
不規則な立体形状。音響インピーダンスの差異による反射。
比較的強いエコーを返すことがあるが、形状が歪んでいるため、プローブの前後・左右動に対してエコーのピークが不安定に移動する。
溶接線に平行な指示長さを持つが、波形がやや乱れる。
溶け込み不良 / 融け不良
平面状・開口部を持つ薄い隙間。鏡面反射特性が非常に高い。
入射角と反射角が一致した瞬間に極めて高い鋭いエコー(鋭峰)を返す。端部からの回折波(ディフラクション)が観測されることもある。
最高の反射効率を示し、ビード長手方向に連続した指示を与える。DBA法やDAC曲線超過幅が大きい。
4. JIS/ISO規格に基づく合否判定基準と実務的データ
NDIレベル2試験の合否、および実際の施工管理における判定は、単に「欠陥を見つける」ことではなく、規格値に基づいた「定量的なサイズ評価と等級分類」を行うことにある。
4.1 RTにおける評価数値(JIS Z 3104に基づく概要)
- 第一種欠陥(丸みのある欠陥:ブローホール等):
- 母材の厚さ $t$ に応じた透過写真の比較母型(コンパレータ)を用い、単位面積あたりの個数、および最大径の大きさを評価。
- 第二種欠陥(長さをもつ欠陥:スラグ巻き込み、溶け込み不良等):
- 欠陥の「長さ」と「母材厚さ $t$」の比率、または累積長さによってクラス1(最高品質)からクラス4(不合格)まで分類。
- *実務の急所:* 溶け込み不良は原則としてクラス4(不合格)に直結することが多い(重要構造物の場合、長さの許容値がゼロに近い、あるいは完全除去が義務付けられる)。
4.2 UTにおける評価数値(JIS Z 3060に基づく判定カテゴリ)
- エコー高さ区分(等級分類):
- L級(Level L): 最大エコー高さが判定レベル(DAC曲線またはこれに準じる基準感度線)を超えるもの。欠陥の寸法測定(簡易法:最大エコー法、または6dB降下法など)を実施。
- H級(Level H): より厳格な品質が要求される場合(高圧ガス、原子力、橋梁主要部など)。許容限界値が厳しく設定されており、微小な平面状欠陥も許されない。
- き裂状欠陥の取り扱い:
- UTで検出された波形が「平面状欠陥(き裂、融合不良、溶け込み不良)」の特性を示した場合、その大きさに関わらず、多くの規格(JIS Z 3060 / ASME Sec.V / ISO 17640等)において即座に「不合格(補修対象)」とされる。体積状欠陥(ブローホール・スラグ)とは許容基準の厳格さが根本から異なるため、「波形が鋭いか鈍いか」の判定が実務における安全性を左右する。
5. 試験対策:試験問題の罠を見抜く実践的アプローチ
NDIレベル2の実技試験(または筆記試験の波形読取問題)では、受験者を迷わせる「典型的な引っ掛け」が存在する。これらを幾何学的・論理的に突破するための思考プロセスを整理する。
1. 「アーティファクト(擬似指示)」の排除:
- RTにおけるフィルムのキズ、現像ムラ、裏波の段差による影を欠陥と誤認しない。裏波の場合は、ビード幅と一致する直線的かつ対称的な黒化度変化を示すため、形状の対称性で判断する。
- UTにおける「コーナー反射」や「モード変換波(横波・縦波の干渉)」による偽エコーを見極める。プローブを少し離して(トランスミッションやタンデム走査の原理を想起)エコーの移動軌跡を確認する。
2. 欠陥の「向き(オリエンテーション)」の考慮:
- 超音波の入射方向に対して平面状欠陥が垂直でない場合、エコー高さが著しく低下する。エコーが低いからといって「軽微な欠陥」と即断せず、斜角探傷の角度(45°、60°、70°)を変えて多方向からアプローチしているかのプロセスを検証する。
3. 複数欠陥の複合パターンの解析:
- 実際の現場では「スラグ巻き込みの上にさらにブローホールが乗る」といった複合欠陥が存在する。RTでは重畳した影、UTでは複雑な多重ピーク波形となるため、最も振幅が高く、あるいは最も黒い主たる因子の幾何学的特徴を優先して判定を下す。
これらの幾何学的判定アルゴリズムと冶金学的背景を完全に体得していれば、レベル2試験における難解な波形・フィルム読取問題においても、迷うことなく正解の判定を下すことができる。